新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

2024-03-01から1ヶ月間の記事一覧

柊検事、忍びの道を研究す

1993年光文社文庫書き下ろしの本書は、以前短篇集「蛇姫荘殺人事件」を紹介した、弁護士作家和久峻三の「赤かぶ検事もの」の長編。高山地検時代、法廷に好物の赤かぶをぶちまけてしまったことから異名が付いた柊茂検事は、京都地検に異動してきている。 京都…

下腹部に悪魔の顔を刺青して

1997年発表の本書は、サイコサスペンス作家ディヴィッド・マーチスンの「テディ・キャメルもの」。代表作「嘘、そして沈黙」は、マニアの間で<ウソチン>と呼ばれた話題作らしい。その主人公で<人間嘘発見器>とあだ名されるのが元刑事のキャメル。本作の…

新興国29ヵ国の行方

2023年発表の本書は、比較政治学・国際関係論が専門の東京大学恒川恵市名誉教授の新興国論。多様な切り口と経済指標から、新興国と呼ばれる29ヵ国の経済・政治・軍事を論じたもの。1970年ごろ新興国だったシンガポールや韓国は先進国入りして、今は次の国々…

史上初の長編密室ミステリー

本書は、今月出かけた京都の出町桝形商店街の古書店で見つけたもの。1891年の発表で、史上初の長編密室ミステリーである。ずっと名のみ知られた古典で、ミステリー歴50年以上になって、ようやく見つけた逸品である。 ロンドンの一角ボウ町にある下宿屋で、労…

裏面から見た各国の悩み

2022年発表の本書は、国税調査官出身のフリーライター大村大次郎氏の「世界の歴史・経済論」。もちろん世界を動かしている最大のものは、イデオロギーや宗教、軍事力ではなく「お金」である。その視点から、通常表には出てこない真実がいくつも紹介されてい…

美緒も歩けば、死体にあたる

1996年発表の本書は、何作も紹介してきた深谷忠記の「黒江壮&笹谷美緒シリーズ」の1作。ずっと手に入らなかったもので、先日藤沢のBookoffでようやく見つけた。作者の未読作品は、あと1冊ノンシリーズが残っているだけ。 2時間推理ドラマの典型のような…

ダンカン・キンケイド警視登場

1993年発表の本書は、ダラス生まれで英国好きの作家デボラ・クロンビーのデビュー作。複数のミステリー賞で、新人賞候補になった作品である。舞台は英国、ロンドン警視庁のエリート警視ダンカンは、弟に譲られた会員制リゾートホテルで休暇を過ごすため、フ…

21世紀の科学でも解けない謎

2021年発表の本書は、欧州在住30年のジャーナリストの2人(片野優氏・須貝典子氏)が、欧州各地に残る「都市伝説」を13編集めたもの。不思議な話の連続で、多くのものは映画や小説によって紹介されている。ただ、僕も知らなかった話がいくつかあった。 ◆自…

シェルバーンの正体

このDVDは、「Hawaii-5O」のシーズン3。前シーズンの最終回で、宿敵ウォー・ファットがマクギャレット一家を狙う理由、ファットが怖れ憎む<シェルバーン>の正体が明らかになる。 このシーズンからは、スティーブ・マクギャレット少佐の恋人ロリンズ大尉が…

最強安倍官邸の謎は解けず

2022年発表の本書は、第一次・第二次安倍政権で内閣広報官、総理大臣補佐官を務めた長谷川榮一氏の「官邸録」。憲政史上最長となった政権を、主に広報畑から支えた人で、数々の「秘録」をお持ちのはず。しかし前書きの中に「内閣法で職務上知り得た秘密を秘…

法人類学者と死体たち

2004年発表の本書は、法人類学者エミリー・クレイグ博士の経験を綴ったノンフィクション。「死体は語る」の上野正彦氏が推薦している書だ。クレイグ博士はもともとは医療イラストレータ、検視解剖の現場で助手的な役割をしているうちに法人類学の道を目指し…

ビゼーを待つシューマン

本書は、以前紹介した「危険な童話」などと同様、土屋隆夫の「千草検事シリーズ」の長編と何編はの短編、エッセイなどを合本したもの。中心となっているのは、1966年に発表された300ページほどの長編「赤の組曲」である。 千草検事の学生時代の知り合い坂口…

河川砲艦での救出劇

1960年発表の本書は、これまで「黒海奇襲作戦」など4冊を紹介した英国冒険作家ダグラス・リーマンが、今話題の東シナ海を舞台に描いた活劇。作者の本領は、小型もしくは老朽の戦闘艦が、より強大な敵と戦う姿。本書では、本来河川で運用される旧式の河川砲…

パートナーになったラム君

1941年発表の本書は、以前「屠所の羊」や「大当たりをあてろ」を紹介した、A・A・フェア(昨日紹介したE・S・ガードナーの別名)の「バーサ&ラム君シリーズ」。小柄で頼りなさげだが、頭の切れは抜群のドナルド・ラム。女丈夫バーサ・クールの調査会社に雇われ…

街角オーディションの目的

1946年発表の本書は、久しぶりに見つけたE・S・ガードナーの「ペリイ・メイソンもの」。法廷シーンも多く(70ページほどある)、本格ミステリーとしても楽しめる作品に仕上がっている。第二次世界大戦直後なのだが、戦勝国米国には戦争の傷跡も見られない。ロ…

海兵隊幹部から見た沖縄問題

2016年発表の本書は、日本文化にも造詣の深い政治学者で在沖縄海兵隊にも所属したことのあるロバート・D・エルドリッジの「オキナワ論」。沖縄にある米軍(専用)基地の再編や削減などについて、米軍も日本政府も失敗したという。例えば、最も大きな争点である…

タイムマシンで行く15の道

2016年発表の本書は、3人の歴史学者(*1)による京都の歴史探訪で、15の道を紹介している。ガイドブックにある「○○は何年に建立されました」的な紹介と、歴史書にある「このような時代で、××のために必要だった」的な解説を融合した書である。ある種の道や…

500万ドルの相続人たち

1996年発表の本書は、アルファベット順にタイトルを重ねるスー・グラフトンの「キンジー・ミルホーンもの」の第13作。作中、リアルタイムで年をとるキンジーは36歳になった。「探偵のG」でキンジーと恋に落ちながらもドイツに去っていった、タフガイ探偵ロ…

大戦間の黄金時代を舞台に

1992年発表の本書は、13人の作家が2つの条件を提示されて「アガサ・クリスティに捧げる短編」を書き下ろしたアンソロジー。その条件とは、 ・黄金期たるWWⅠ~WWⅡの時期を舞台 ・少なくとも一つの死体を登場させる殺人物語 であるが、何人かの作家は尻込みし…

冤罪者を決して出さぬよう

以前、高木彬光短篇集「5人の名探偵」を紹介したが、その5人の内で僕が最後まで読まなかったのが、本書(1968年発表)の探偵役近松茂道検事のシリーズ。神津恭介を始めとして、作者の探偵役は颯爽とした青年のイメージが強い。しかし近松検事だけは、牛の…

誰のため、何のための2.6兆円

2018年発表の本書は、毎日新聞記者で福島第一原発事故のその後を取材し続けている日野行介氏が「21世紀最悪の公共事業」の実態を綴ったもの。福島県を中心に広範囲に放射性物質が散布された事故で、その除染のため2016年度までで2.6兆円とのべ3,000万人の従…

クライシスコミュニケーションの実例

本書は、戦後日本最大の危機だった東日本大震災と、それに伴って起きた福島第一原発事故の数日間を、TVメディアがどう伝えたかをダイジェストしたもの。筆者の伊藤守氏は、社会学専攻で早稲田大学メディア・シティズンシップ研究所所長。震災後1年経った201…

「赤狩り」の中、キャシディ家の闘い

2015年発表の本書は、ロサンゼルスで20年余り映画・TVのライターをしていたデイヴィッド・C・テイラーの作家デビュー作品。日本人があまり知らない米国の「赤狩り」の時代に、ソ連から米国に逃れてきたトム・キャシディ(旧名トマス・カスナヴィエツキ)一家の…

泥棒探偵バーニイ登場

なかなかの手腕を持つ「変わった作家」ローレンス・ブロック、これまでアル中探偵マット・スカダーものや、ノンシリーズ「殺し屋」を紹介してきた。作者には他にもシリーズものがあるのだが、今回ようやく「泥棒探偵バーニイもの」を見つけることができた。…

家族制度に見る世界の行方

本書は、何度か紹介しているフランスの歴史人口学者エマニュエル・トッド氏のインタビュー記事の書籍化。2013~21年に文芸春秋誌に掲載された記事を11編収録している。英米から欧州、ロシア、中国に言及するとともに、日本の現状課題や将来の方向性について…

名脚本家のミステリー

1964年発表の本書は、ウィリアム・ゴールドマンを有名にしたサイコ・サスペンス。作者の名前は、かなりのミステリ通でも知らないかもしれないが、逆に映画通の人なら「ああ、あの脚本家」とひざを打つかもしれない。何しろ作者が脚色を担当した名画は、20を…

バスティーユで出会った3青年

本書(1997年発表)は、以前「ウィーンの密使」「聖アントニウスの殺人」を紹介した藤本ひとみの、やはりフランス革命を背景にした作品。フランス革命についてはバスティーユ監獄の襲撃や、革命勢力(ジャコバン派など)の内紛、王政諸国の介入くらいしか僕…

国境紛争を裁く委員の不審死

先日横浜馬車道で古書店を見つけふらりと入ったところ、最近見かけることのないパトリシア・モイーズの作品を3冊見つけることができた。古書店主も「モイーズ面白いですよね」と言ってくれた。今月から1冊/月のペースで紹介したい。 1968年発表の本書は、…

ユリとケイの新人時代

1998年発表の本書は、以前「ダーティペアの大復活」を紹介した高千穂遥のSFシリーズ。WWWAのトラブルコンサルタントである黒髪のぶりっ子ユリと、赤毛のボーイッシュなケイのコンビの物語。本編は唯一の外伝で、コンビの新人時代のエピソードが語られる。 大…

エジンバラでハイド氏を追う

以前スティーブンソンの「ジーキル博士とハイド氏」を紹介したが、英国の古典であるこの作品をモチーフにした作者も少なくないようだ。イアン・ランキンもその一人で、昨日紹介したデビュー作「紐と十字架」には何ヵ所かこの書が出てきた。第二作である本書…