新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

カタレプシー患者と東欧を行く

 1966年発表の本書は、昨日紹介した「怪盗タナーは眠らない」のシリーズ第二作。アル中探偵マット・スカダー、泥棒バーニー、殺し屋ケラーなど多くのレギュラーを持つローレンス・ブロックの作品中でも、かなり独特なものだと分かった。解説にはユーモアミステリーとあるが、僕は立派なスパイスリラーだと思う。

 

 今回タナーが受けた依頼は、チェコスロバキアの収容所に収監されている老人を救出して、彼が持っている情報を入手してくれというもの。正体不明の依頼者は「CIAなどには任せられない。能力もないし、失敗したら米国の威信に傷がつく」と言って、タナー一人でこの難しいミッション完遂を求めた。

 

        

 

 この老人コタセックは、第二次世界大戦前のスロバキア(直ぐにドイツに併合されてしまったが)の外務大臣だった。戦後はリスボンに隠棲しながらネオナチの精神的支柱となっていたが、チェコスロバキアの秘密警察に拉致され、人民裁判にかけられようとしている。警戒厳重な古い城に監禁されているだけでなく、本人が糖尿病・心臓病に加え時々仮死状態になるカタプレシー症候群を患っている。無理はさせられないのだ。

 

 単身ウイーンからプラハに乗り込んだタナーは、現地のネオナチであるノイマン父娘の協力を得る。娘グレタは魅力的な女で、彼女が色香で誑し込んだユダヤ人組織<シュルテン団>メンバーを使って、タナーたちはコタセックを盗み出す。ただこの老人、不満たらたら、無理難題の贅沢を要求する。タナーはカタプレシー症候群を利用して、仮死状態にしたコタセックを棺に入れて運び出すのだが・・・。

 

 チェコスロバキアハンガリーユーゴスラビアに渡る逃避行で、民族対立がヴィヴィッドに描かれている。グレタのお色気シーンはファースの色が濃いが、その他はリアルなサスペンス。特にタナーの最後の措置には驚かされる。

 

 うーん、このシリーズはとても面白いですが、第三作以降が見つかりません。残念!