新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

サイコ・サスペンス

名脚本家のミステリー

1964年発表の本書は、ウィリアム・ゴールドマンを有名にしたサイコ・サスペンス。作者の名前は、かなりのミステリ通でも知らないかもしれないが、逆に映画通の人なら「ああ、あの脚本家」とひざを打つかもしれない。何しろ作者が脚色を担当した名画は、20を…

「全米400名の吸血鬼」のひとり

シカゴ育ちのロバート・ウォーカーという作家は、1989年の「デコイ」という作品でデビューし、30作ほどの長編ミステリーを発表している。その中で半分近くを占めるのが、FBIの検死官ジェシカ・コランを主人公としたシリーズ。邦訳されたものの大半も、このシ…

ペーパーバック・ライター出身の作家

本書の作者ジョン・D・マクドナルドは、ヨット住まいの探偵「トラヴィス・マッギーもの」始め、60冊以上の犯罪小説・スパイ小説などを書いた。本書の主人公サム・ボーデン弁護士同様、作者も第二次世界大戦中は軍人。CIAの前身であるOSSに所属していた陸軍中佐…

アンプレザントネス文学

1886年発表の本書は、ロバート・ルイス・スティーブンソンの代表作。わずか120ページ足らずの中編だが、怪奇小説の古典としてよく知られているものだ。ただ僕自身もそうだが題名「ジーキル博士とハイド氏」は知っていても、ちゃんと読んだ人は多くないと思う…

ドイツの「どんでん返し職人」

かつてはミステリーと言えば、英国と米国。あとフランスの犯罪&サスペンスものが少々という印象だった。しかし北欧諸国やイタリアのものも紹介されるようになったが、ドイツのミステリーというのは記憶にない。しかし2006年に「治療島」でデビューしたセバ…

パリのペルシア人

以前紹介した「I am Legend」が3度の映画化なら、1910年発表の本書は1925年を始めとして3度映画化、加えて1973年にはロックミュージカルでも映画化されているという古典。この文庫本が出たころには、「劇団四季」でも上演されていたらしい。作者のガストン…

サイコサスペンスの古典

以前「動く標的」などを紹介したハードボイルド作家ロス・マクドナルド。彼の本名はケネス・ミラー、本書「狙った獣」の作者マーガレット・ミラーの夫である。二人は高校時代から知り合いだったが、マーガレットは市会議員の娘。ケネスにとっては高嶺の花だ…

ブルックリンを愛するあまり

スタンリー・エリンは不思議な作家である。EQMM(エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン)が発掘したひとりで、「特別料理」という奇妙な味の短編でデビューした。生涯に長編14作と短編集4つを残した。ずっとブルックリンに棲み続け、70年弱の間の大き…

ケンブリッジ、1171

作者のアリアナ・フランクリンは、本書がデビュー作。プランタジネット朝のヘンリーⅡ世の時代の連続殺人事件を描いて、CWA最優秀歴史ミステリ賞を受賞(2007年)している。世は十字軍の時代、ヘンリーⅡ世も聖地へ出陣し、彼の治世下にあるイングランドのケン…

壊れた家庭が重なり合って

心理サスペンスの女王、ルース・レンデルの1984年の作品が本書。作者には本格ミステリーのウェクスフォード主任警部シリーズとノンシリーズがあり、ノンシリーズは「背筋も凍るサスペンス」が売り物。どちらかというとノンシリーズが彼女の作家としての地位…

黒魔術・交霊術が呼ぶ悲劇

「16歳の誕生日を間近に控えた冬、バップは悪魔に魂を売った」という衝撃的な一文で始まるのが本書。サイコ・サスペンスの女王ルース・レンデルが、オカルトが趣味の頂点を目指した作品である。 舞台はロンドンの下町、小柄で風采が挙がらない父親ハロルド、…

真夏のサスペンス、1985

ウィリアム・カッツという作者のことは、本書(1985年発表)を手にとるまで知らなかった。。解説によると、CIA局員だったり未来学者の助手をしていた経歴があるという。何作か邦訳されているが、主としてサスペンスものの巧手としての評価が高い。本書も、真…

映画・原作、どちらも傑作

作者のトマス・ハリスは本当に寡作家である。本書は「ブラック・サンデー」、「レッド・ドラゴン」に続く第三作で、この後もレクター博士もの2編を書いただけだ。しかしその作品のすべてが映画化されるなど、ミステリー界に大きな足跡を残した人である。 19…

登場人物は3人だけ

以前「わらの女」「目には目を」を紹介した、フランスのサスペンス作家カトリーヌ・アルレーのデビュー作が本書(1953年発表)。悪女もので一世を風靡した作家で、第二作「わらの女」は映画化もされた。いずれも登場人物を絞って、心理的な葛藤を描きながら…

4人の一人称ドラマ

カトリーヌ・アルレーはサスペンスものを得意としたフランスの作家、特に悪女を描かせたら一流の腕前を発揮する。生年月日も不詳、元女優だったとも言われるが経歴についても分かっていない。第二作「わらの女」がヒットし、これについては以前にも紹介した…

エスプリ・サスペンス

フランスミステリーで悪女ものといえば、カトリーヌ・アルレーが思いつくが、本書のボアロー&ナルスジャックも古典の代表作家である。昨日紹介したモーリス・ルブランや、メグレ警部を生んだジョルジュ・シムノンくらいしかフランス作家を読んだことが無か…

牧師親子が探る16年前の事件

「背筋が凍る」サスペンスが得意の女流作家、ルース・レンデル。本書は彼女の初期の作品(1967年発表)で、長編第四作。デビュー作「薔薇の殺意」に続いて、田舎町の警官ウェクスフォード首席警部が登場する。彼は署長からアーチェリー牧師という人物から届…

シリアル・キラーの遺留物

「百番目の男」でデビューした、ジャック・カーリイの第二作が本書。主人公は、同じアラバマ州モビール市の特別捜査班カーソン・ライダー刑事。前作も異様なサイコ・サスペンスだったが、本書はそれを上回る奇怪さである。プロローグとして、30年前連続殺人…

ディープサウスでの心理捜査

大学生活初期までには、ミステリー1,000冊を読破したと豪語した僕だが、苦手な分野もある。行動派といえば聞こえはいいが、暴力派に近い低俗なハードボイルドは苦手だ。しかしそれよりもっと苦手なものがあって、それがサイコサスペンス。 特に理解できなか…

記憶の空白3年半

本書もウィリアム・アイリッシュ初期(1941年)の作品。200ページに満たない中編のような作品だが、冒頭から中盤にかけてのサスペンスは背筋を寒くさせるほどだ。主人公が記憶の空白期間を「黒いカーテンに覆われたようなもの」と感じたことからこのようなタ…

黒のモチーフを持つ作家

コーネル・ウールリッチ別名ウィリアム・アイリッシュという作家は、独特なサスペンス小説をいくつか書いた。「黒」を冠した題名が多かったのも、特徴である。代表作は3つと言われ、 (1)幻の女 殺人罪で有罪判決を受け、死刑が迫る友人のために、 彼のア…

殺人者の肖像

ルース・レンデルは背筋の寒くなるようなスリラーを得意とする女流作家、代表作が本書「ロウフィールド館の惨劇」(1977年発表)だが、他にも質の高い諸作を残しているという。ただ僕はこれまで読んだことはなく、多くの書評では本書を高く評価していたので…