サイコ・サスペンス
本書は<Hard Case Crime>というペイパーバックシリーズの1冊として2004年に発表され、翌年の米国探偵作家クラブ賞最優秀ペイパーバック賞を受賞した作品。作者のドミニク・スタンズベリーは、人生の暗黒面・呪われた面を書くことに長けたサスペンス作家で…
1950年発表の本書は、技巧の名手ヘレン・マクロイの<ベイジル・ウィリング博士もの>。コネチカット州のブレアトン女子学院に勤めて5週間にもならない美術教師のフォスティーナ・クレイルは、突然校長から解雇を告げられる。しばらく前から、学院内でよそ…
1957年発表の本書は、心理探偵<ベイジル・ウィリングもの>などを紹介しているヘレン・マクロイのサイコ・サスペンス。300ページほどの長編だが、200ページを過ぎてからの急転直下の展開は見事というほかはない。さらに主人公ハリー・ディーンの結末の付け…
2012年発表の本書は、現代青春小説の作者バリー・ライガが、ジャズという17歳の青年とその仲間たちの活躍を描いた三部作の第一作。作者は漫画業界の出身で他に普通小説も書いているが、このシリーズは立派なミステリーである。 舞台は東海岸の州の田舎町ロボ…
2012年発表の本書は、本歌取りが得意なグレッチェン・マクニールの<高校生版そして誰もいなくなった>。3つの高校から集められた10人が、孤島で殺人鬼に殺されていく。ホラーではあるのだが、主人公メグの青春ラブストーリーの色合いが濃い。親の持ってい…
2015年発表の本書は、BBCの美術ドキュメンタリーなどのディレクターから作家に転身したルネ・ナイトのデビュー作。新人作品としては異例の、25ヵ国での刊行が約束されていたという期待作である。 驚いたのは、翻訳ものに付き物の登場人物表がないこと。確か…
1921年発表の本書は、以前「赤毛のレドメイン家」を紹介したイーデン・フィルポッツのスリラー。作者は、怪奇小説・ファンタジー・普通小説と幅広いジャンルの作品を遺した。ミステリー色が強いものとして、本書は「赤毛・・・」に先立つ作品で、ずっと探してい…
2013年発表の本書は、フィクションもノンフィクションも、単著も共著もこなすデイヴ・エガーズのデジタルサスペンス。昨日「過剰可視化社会」で危惧されたことの、より重症化したケースをフィクションとして取り上げている。 <サークル>は巨大テック企業、…
本書は以前「幻の女」「暁の死線」などを紹介したウィリアム・アイリッシュ(別名コーネル・ウールリッチ)の短編集。1940年代を代表するサスペンス作家で、犯罪小説から変革ミステリーまで、やや暗めのトーンで幅広いジャンルの小説を遺した。20冊ほどの長…
本書は「ロウフィールド館の惨劇」をはじめ、何冊かのサイコ・サスペンスを紹介してきたルース・レンデルの作品。「ロウフィールド・・・」の直前、1976年の発表である。ロンドン市西北のケンボーン・ヴェールという自治区では、ときおり女性が絞殺される事件が…
1993年発表の本書は、昨年「女検死官ジェシカ・コラン」を紹介したロバート・ウォーカーの第二作。被害者の生き血を絞りながらじわじわ殺し、血を飲むことに無上の喜びを感じる現代の吸血鬼と闘い、重傷を負ったジェシカは今度はニューヨーク(NY)で「食屍…
1997年発表の本書は、サイコサスペンス作家ディヴィッド・マーチスンの「テディ・キャメルもの」。代表作「嘘、そして沈黙」は、マニアの間で<ウソチン>と呼ばれた話題作らしい。その主人公で<人間嘘発見器>とあだ名されるのが元刑事のキャメル。本作の…
1964年発表の本書は、ウィリアム・ゴールドマンを有名にしたサイコ・サスペンス。作者の名前は、かなりのミステリ通でも知らないかもしれないが、逆に映画通の人なら「ああ、あの脚本家」とひざを打つかもしれない。何しろ作者が脚色を担当した名画は、20を…
シカゴ育ちのロバート・ウォーカーという作家は、1989年の「デコイ」という作品でデビューし、30作ほどの長編ミステリーを発表している。その中で半分近くを占めるのが、FBIの検死官ジェシカ・コランを主人公としたシリーズ。邦訳されたものの大半も、このシ…
本書の作者ジョン・D・マクドナルドは、ヨット住まいの探偵「トラヴィス・マッギーもの」始め、60冊以上の犯罪小説・スパイ小説などを書いた。本書の主人公サム・ボーデン弁護士同様、作者も第二次世界大戦中は軍人。CIAの前身であるOSSに所属していた陸軍中佐…
1886年発表の本書は、ロバート・ルイス・スティーブンソンの代表作。わずか120ページ足らずの中編だが、怪奇小説の古典としてよく知られているものだ。ただ僕自身もそうだが題名「ジーキル博士とハイド氏」は知っていても、ちゃんと読んだ人は多くないと思う…
かつてはミステリーと言えば、英国と米国。あとフランスの犯罪&サスペンスものが少々という印象だった。しかし北欧諸国やイタリアのものも紹介されるようになったが、ドイツのミステリーというのは記憶にない。しかし2006年に「治療島」でデビューしたセバ…
以前紹介した「I am Legend」が3度の映画化なら、1910年発表の本書は1925年を始めとして3度映画化、加えて1973年にはロックミュージカルでも映画化されているという古典。この文庫本が出たころには、「劇団四季」でも上演されていたらしい。作者のガストン…
以前「動く標的」などを紹介したハードボイルド作家ロス・マクドナルド。彼の本名はケネス・ミラー、本書「狙った獣」の作者マーガレット・ミラーの夫である。二人は高校時代から知り合いだったが、マーガレットは市会議員の娘。ケネスにとっては高嶺の花だ…
スタンリー・エリンは不思議な作家である。EQMM(エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン)が発掘したひとりで、「特別料理」という奇妙な味の短編でデビューした。生涯に長編14作と短編集4つを残した。ずっとブルックリンに棲み続け、70年弱の間の大き…
作者のアリアナ・フランクリンは、本書がデビュー作。プランタジネット朝のヘンリーⅡ世の時代の連続殺人事件を描いて、CWA最優秀歴史ミステリ賞を受賞(2007年)している。世は十字軍の時代、ヘンリーⅡ世も聖地へ出陣し、彼の治世下にあるイングランドのケン…
心理サスペンスの女王、ルース・レンデルの1984年の作品が本書。作者には本格ミステリーのウェクスフォード主任警部シリーズとノンシリーズがあり、ノンシリーズは「背筋も凍るサスペンス」が売り物。どちらかというとノンシリーズが彼女の作家としての地位…
「16歳の誕生日を間近に控えた冬、バップは悪魔に魂を売った」という衝撃的な一文で始まるのが本書。サイコ・サスペンスの女王ルース・レンデルが、オカルトが趣味の頂点を目指した作品である。 舞台はロンドンの下町、小柄で風采が挙がらない父親ハロルド、…
ウィリアム・カッツという作者のことは、本書(1985年発表)を手にとるまで知らなかった。。解説によると、CIA局員だったり未来学者の助手をしていた経歴があるという。何作か邦訳されているが、主としてサスペンスものの巧手としての評価が高い。本書も、真…
作者のトマス・ハリスは本当に寡作家である。本書は「ブラック・サンデー」、「レッド・ドラゴン」に続く第三作で、この後もレクター博士もの2編を書いただけだ。しかしその作品のすべてが映画化されるなど、ミステリー界に大きな足跡を残した人である。 19…
以前「わらの女」「目には目を」を紹介した、フランスのサスペンス作家カトリーヌ・アルレーのデビュー作が本書(1953年発表)。悪女もので一世を風靡した作家で、第二作「わらの女」は映画化もされた。いずれも登場人物を絞って、心理的な葛藤を描きながら…
カトリーヌ・アルレーはサスペンスものを得意としたフランスの作家、特に悪女を描かせたら一流の腕前を発揮する。生年月日も不詳、元女優だったとも言われるが経歴についても分かっていない。第二作「わらの女」がヒットし、これについては以前にも紹介した…
フランスミステリーで悪女ものといえば、カトリーヌ・アルレーが思いつくが、本書のボアロー&ナルスジャックも古典の代表作家である。昨日紹介したモーリス・ルブランや、メグレ警部を生んだジョルジュ・シムノンくらいしかフランス作家を読んだことが無か…
「百番目の男」でデビューした、ジャック・カーリイの第二作が本書。主人公は、同じアラバマ州モビール市の特別捜査班カーソン・ライダー刑事。前作も異様なサイコ・サスペンスだったが、本書はそれを上回る奇怪さである。プロローグとして、30年前連続殺人…
大学生活初期までには、ミステリー1,000冊を読破したと豪語した僕だが、苦手な分野もある。行動派といえば聞こえはいいが、暴力派に近い低俗なハードボイルドは苦手だ。しかしそれよりもっと苦手なものがあって、それがサイコサスペンス。 特に理解できなか…