新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

歴史・軍事史

「使われそうな核」をどうする?

2022年発表の本書は、ロシアのウクライナ侵攻とこれにともなう核を使うぞとの脅迫を受けて、専門家4名(*1)が対談した結果のレポート。長らく使われるはずのなかった核兵器が、ひょっとすると炸裂するかもしれない国際情勢の中で、日本の安全保障はどうあ…

北海の孤独な女王

80年前の今日は、ノルウェーのトロムセフィヨルドに停泊していたドイツの最新鋭戦艦「ティルピッツ」が転覆し戦闘力を無く(ようするに沈没)した日。1939年竣工のこの戦艦は、「ビスマルク級」の二番艦。排水量43,000トン、最高速力約31ノット、38センチ連…

江戸時代に歪められた歴史

2012年発表の本書は、以前「お世継ぎ」を紹介した評論家八幡和郎氏の歴史書。舌鋒鋭い評論が印象的な筆者も、最近TV等でお見かけしなくなった。現代政治・経済の論説だけでなく、国内外の歴史の研究者であることも、上記の書で知った。 本書は「ありがちな戦…

「デジタル梁山泊」になれなかったよ

2023年発表の本書は、朝日新聞ドバイ支局長だったが本書にある取材を通じて退職した記者伊藤喜之氏の「ガーシー事件始末記」。ドバイを拠点に芸能人らについての暴露を繰り返し、幾多の訴追も受けていた東谷義和らのドバイでの行動をインタビューを重ねて記…

王政・共和制・帝政、1,200年の戦史

2005年発表の本書は、軍事史作家柘植久慶の「ローマ帝国史」。テヴェレ河畔(*1)の小さな羊飼いの集落が、地中海全域から、西はポルトガル・イングランド、東はイラク、北はオランダやモルドヴァまでを版図にする(*2)までになった。東西に分かれ、西ロー…

チェキストたちの100年史

2023年発表の本書は、エストニアで国際防衛安全保障センター研究員を務める保坂三四郎氏のロシア諜報機関史。ロシア革命で全国に密告網を作り上げたチェーカーを祖とするロシアの諜報機関は、スターリン体制でも彼の死後も、ソ連崩壊をも超えて生き延びた。…

第二次世界大戦三部作完結

1958年発表の本書は、冒険小説の雄アリステア・マクリーンの第三作。以前、 ・北海でドイツ軍と戦う軽巡洋艦「女王陛下のユリシーズ号」 ・地中海でドイツ軍の巨砲を破壊する「ナヴァロンの要塞」 を紹介しているが、本書が第二次世界大戦三部作の完結編で、…

兵法35箇条の解説

1994年発表の本書は、軍事史作家柘植久慶の「兵法35箇条解説」。グリーンベレーの教官をしフランス外人部隊で闘ったという経歴はさておき、作者の戦争論はとてもヴィヴィッドだ。戦略級よりは、戦術・戦闘級の理論や実践の啓示にはうなずけるものが多い。本…

サイバー空間に触れたリスク研究者

2024年発表の本書は、昨日「ウクライナ戦争の200日」を紹介した小泉悠氏が、サイバーセキュリティの専門家小宮山功氏と共著したもの。小宮山氏とは親交があり、若手のサイバーセキュリティ研究者で、またJPCERTで指導的な役割を果たしている人だ。 本書で2…

新しい戦いの多方面分析

2022年発表の本書は、ウクライナ戦争が始まってからの200日間に、以前「現代ロシアの軍事戦略」を紹介した小泉悠氏が、識者と7度にわたって対談した記録。対談者と、印象的な議論をまとめてみた。 ◇批評家東浩紀氏(2022/4) ・この20年間(グローバリズム…

「怖ろしい美」のプロパガンダ

1939年9月、ナチスドイツのポーランド侵攻で、WWⅡの幕が上がった。以降、足掛け6年間欧州は戦乱に巻き込まれる。2000年発表の本書は、軍事史作家柘植久慶応のナチスドイツのコレクション本。作者自身がパリ(の古書店)などを巡って、収集した写真・ポスタ…

7世紀、半島の大乱

西暦663年の今日、27,000人の大軍で百済救援に向かった日本軍は、白村江で唐の水軍に敗れた。「大化の改新」で国力を増し、阿部比羅夫の蝦夷征伐で鍛えた水上戦力をもって、本格的に半島に侵攻しようとした大和朝廷は一敗地にまみれることになる。 1996年発…

そろそろ終わりにしなくては

昨日紹介した「警視庁最重要案件指定~靖国爆破を阻止せよ」で、日韓など外交関係の「古傷」を考えさせられたので、本棚から探してきたのが2008年発表の本書。著者の東郷和彦氏は元外交官。駐オランダ大使を最後に辞任(*1)したが、その後も米韓台各国の教…

謀略は「誠」なり(後編)

昨日の「秘録陸軍中野学校」の続編。同じく畠山清行の著作全6巻の内3~6巻124エピソードから39を保坂正康が選んで編集したもの。戦況の悪化に伴い、卒業生に求められるミッションも変わってきた。敵地に潜入して長期にゲリラ活動をする訓練も加わり、卒業…

謀略は「誠」なり(前編)

本書は戦前・戦中の実録ものを多く遺した、畠山清行の「秘録陸軍中野学校*1」のうち1~2巻(1971年発表、エピソード60)から、ノンフィクション作家保坂正康が28エピソードを選んで編纂し文庫化したもの。 謀略戦としては、日露戦争時の明石大佐のロシア国…

勝敗逆転の戦争史観

2023年発表の本書は、これまで「秩父宮」「陸軍良識派の研究」などを紹介してきたノンフィクション作家保阪正康氏の、近代戦争史観。半藤一利氏が亡くなって、筆者は残された数少ない歴史探偵のひとりである。プーチンのウクライナ侵攻によって、WWⅢが近いと…

組織の病理を歴史家が語り合う

本書は、2007年に文芸春秋に発表された歴史家の対談を新書化したもの。歴史探偵半藤一利氏と文芸評論家福田和也氏が2つの対談に加わり、 ・陸軍編 黒野耐元陸将補、戸部良一防大教授、作家保坂正康氏 ・海軍編 海軍史研究家戸高一成氏、秦郁彦日大講師、平…

4,000年の歴史で、300件のリスト

本書は、先週「戦場の都パリ」を紹介した軍事史作家柘植久慶の「世界の暗殺史」。2003年の文庫書下ろしで、新刊本で買った。長らく本棚に眠っていたものを、先月のトランプ候補暗殺未遂事件をきっかけに、探し出して再読した。 筆者は、バビロニア時代(紀元…

今の激動も、歴史のたった一コマ

今日が1世紀ぶりのパリ五輪の開会式。マクロン大統領の賭け(総選挙)は裏目に出て、フランスの政治は混迷を極めている。それでも本書(1996年発表)を読めば、パリはずっと騒乱の中に会ったことがわかる。今回の激動も、歴史にとってはただの一コマだと・・・…

日本は「サイバー軍」を作れ

2022年発表の本書は、以前「サイバー戦争の今」などを紹介した、国際ジャーナリスト山田敏弘氏の国際関係論。2010年以降の、米中露のサイバー戦を概説して、日本は「サイバー軍」を創設すべきだとある。この主張は妥当だし、紹介されていることの多くは他の…

新しい「総力戦」の実相

2023年発表の本書は、ウクライナ戦争を研究して新時代の戦争の在り方を論じた書。防衛研究所政策研究室長高橋杉雄氏が取りまとめを行い、3つの分野(抑止論・宇宙戦・サイバー戦)の専門家が各章を執筆している。国や勢力が他のものをどう対峙するかは、 1…

何故こう呼ばれる場所なのか

2002年発表の本書は、日本地名研究所評議員である谷川彰英氏の「京都地名辞典」。巻頭に紹介されている地名が一覧できる地図が付いていて、町歩きの大きな助けになる。寺院・神社・通り・川や橋・坂や道・エリアなどが60箇所、写真付きで各3~4ページで解…

Checkmate King2、こちら White Rook

このDVDは、僕が子供の頃に見ていた米国ABC製作のTVドラマ「Combat!」。1962年から5シーズン放映されたもので、日本でも吹き替え版で全152話が放送されている。僕が見たのは、多分80話以降のもの。 D-Day以降の欧州西部戦線における米国歩兵分隊の活躍を描…

竹中先生が選ぶ日本史のリーダー達

昨日石平氏の「中国をつくった12人の悪党たち」を紹介したが、本書も同じ2019年発表の日本経済史。経済版「日本を創った12人」である。著者の竹中平蔵氏は、僕が師事する高名な経済学者。飛鳥時代からWWⅡ後まで、日本に経済改革をもたらした11名と3名の江戸…

四千年の歴史における極悪人たち

2019年発表の本書は、成都生まれで日本に帰化した評論家石平氏の、中国偉人伝。筆者は「なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか」で山本七平賞を受賞し、中国に対して辛口な評論で知られる。 堺屋先生には「日本を創った12人」(*1)という名著があるが、…

古文書を追いかけて

本書は2017年にまとめられたものだが、恐らくは読売新聞なりその系列で連載されたコラムを再編したものだろう。著者の磯田道史教授は歴史学者、著書「武士の家計簿」が映画化され、NHK大河ドラマの時代考証なども手掛ける有名人である。現在は浜松市在住で、…

「自分は捕まらない」との意識

1995年発表の本書は、ロサンゼルス検事局のマーヴィン・J・ウルフ検事と、ジャーナリストのキャスリン・マダーの共著になる、完全犯罪を狙った連中の始末記。その犯行の経緯や、犯人側が「自分は捕まらない」と思っていた犯罪が露見するプロセスが描かれている…

自律型致死兵器(LAWS)の禁止は?

国連でLAWS(Lethal Autonomous Weapon System)禁止の規制検討が進んでいるが、本書は2019年の時点でこのような兵器の区分などを明示したもの。著者の栗原聡氏は慶應大学理工学部教授、AI・ネットワーク研究者である。本書の前半は、 ・人工知能の歴史 ・知…

「装甲部隊の父」の虚実

2020年発表の本書は、以前「砂漠の狐ロンメル将軍」を紹介した日本の戦史家大木毅氏の第二弾。「ドイツ装甲部隊の父」と呼ばれ「電撃戦」を考案して実践した戦車将軍と言われるのが、ハインツ・グデーリアン上級大将。 プロイセンの大地主の家に産まれ、陸軍…

メディアが「分断」に加担する

2020年発表の本書は、同志社大学グローバル・スタディーズ研究科教授内藤正典氏(多文化共生・現代イスラム地域研究が専門)の「分断」研究。世界で各種の分断が発生し亀裂が増しているが、政治とメディアがあるべき対応をしなかったからだとの主張が垣間見…