新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

歴史・軍事史

今の激動も、歴史のたった一コマ

今日が1世紀ぶりのパリ五輪の開会式。マクロン大統領の賭け(総選挙)は裏目に出て、フランスの政治は混迷を極めている。それでも本書(1996年発表)を読めば、パリはずっと騒乱の中に会ったことがわかる。今回の激動も、歴史にとってはただの一コマだと・・・…

日本は「サイバー軍」を作れ

2022年発表の本書は、以前「サイバー戦争の今」などを紹介した、国際ジャーナリスト山田敏弘氏の国際関係論。2010年以降の、米中露のサイバー戦を概説して、日本は「サイバー軍」を創設すべきだとある。この主張は妥当だし、紹介されていることの多くは他の…

新しい「総力戦」の実相

2023年発表の本書は、ウクライナ戦争を研究して新時代の戦争の在り方を論じた書。防衛研究所政策研究室長高橋杉雄氏が取りまとめを行い、3つの分野(抑止論・宇宙戦・サイバー戦)の専門家が各章を執筆している。国や勢力が他のものをどう対峙するかは、 1…

何故こう呼ばれる場所なのか

2002年発表の本書は、日本地名研究所評議員である谷川彰英氏の「京都地名辞典」。巻頭に紹介されている地名が一覧できる地図が付いていて、町歩きの大きな助けになる。寺院・神社・通り・川や橋・坂や道・エリアなどが60箇所、写真付きで各3~4ページで解…

Checkmate King2、こちら White Rook

このDVDは、僕が子供の頃に見ていた米国ABC製作のTVドラマ「Combat!」。1962年から5シーズン放映されたもので、日本でも吹き替え版で全152話が放送されている。僕が見たのは、多分80話以降のもの。 D-Day以降の欧州西部戦線における米国歩兵分隊の活躍を描…

竹中先生が選ぶ日本史のリーダー達

昨日石平氏の「中国をつくった12人の悪党たち」を紹介したが、本書も同じ2019年発表の日本経済史。経済版「日本を創った12人」である。著者の竹中平蔵氏は、僕が師事する高名な経済学者。飛鳥時代からWWⅡ後まで、日本に経済改革をもたらした11名と3名の江戸…

四千年の歴史における極悪人たち

2019年発表の本書は、成都生まれで日本に帰化した評論家石平氏の、中国偉人伝。筆者は「なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか」で山本七平賞を受賞し、中国に対して辛口な評論で知られる。 堺屋先生には「日本を創った12人」(*1)という名著があるが、…

古文書を追いかけて

本書は2017年にまとめられたものだが、恐らくは読売新聞なりその系列で連載されたコラムを再編したものだろう。著者の磯田道史教授は歴史学者、著書「武士の家計簿」が映画化され、NHK大河ドラマの時代考証なども手掛ける有名人である。現在は浜松市在住で、…

「自分は捕まらない」との意識

1995年発表の本書は、ロサンゼルス検事局のマーヴィン・J・ウルフ検事と、ジャーナリストのキャスリン・マダーの共著になる、完全犯罪を狙った連中の始末記。その犯行の経緯や、犯人側が「自分は捕まらない」と思っていた犯罪が露見するプロセスが描かれている…

自律型致死兵器(LAWS)の禁止は?

国連でLAWS(Lethal Autonomous Weapon System)禁止の規制検討が進んでいるが、本書は2019年の時点でこのような兵器の区分などを明示したもの。著者の栗原聡氏は慶應大学理工学部教授、AI・ネットワーク研究者である。本書の前半は、 ・人工知能の歴史 ・知…

「装甲部隊の父」の虚実

2020年発表の本書は、以前「砂漠の狐ロンメル将軍」を紹介した日本の戦史家大木毅氏の第二弾。「ドイツ装甲部隊の父」と呼ばれ「電撃戦」を考案して実践した戦車将軍と言われるのが、ハインツ・グデーリアン上級大将。 プロイセンの大地主の家に産まれ、陸軍…

メディアが「分断」に加担する

2020年発表の本書は、同志社大学グローバル・スタディーズ研究科教授内藤正典氏(多文化共生・現代イスラム地域研究が専門)の「分断」研究。世界で各種の分断が発生し亀裂が増しているが、政治とメディアがあるべき対応をしなかったからだとの主張が垣間見…

東洋のスターリングラード

第二次世界大戦での陸戦といえば、やはり独ソ戦。2つの陸棲国家が総力を挙げて闘い、今のベラルーシ・ウクライナ・バルト三国・ポーランドなどで多くの血が流れた。欧州戦線と違い、太平洋戦線では大規模な陸戦はほとんどない。島嶼を巡る争いが主体で、大…

標高1,000m以上の山岳地から

1993年発表の本書は、歴史・軍事もの作家柘植久慶のフィールドワークもの。グリーンベレーの一員として各地の戦闘に加わったという作者は、退役後も世界を巡って数々の取材をした。その際に、本書のテーマでもある麻薬問題の現場を見ることになる。世界全体…

イスラエル建国前史、WWⅠ

1988年発表の本書は、これまで「過去からの狙撃者」「パンドラ抹殺文書」など出色のスパイスリラーを紹介してきた、マイケル・バー=ゾウハーの歴史スパイもの。WWⅠ当時、パレスチナを含むアラビア半島全域はオスマン・トルコ帝国支配だった。パレスチナには…

国内旅行のためのガイドブック

今週ご紹介している「日本地図シリーズ」、最後はお城である。昨日の「大名の日本地図」にあったように、1~3万石クラスの小大名だと城は持てず陣屋が精々だった。それでも100位の藩は城持ちだったし、天領(幕府直轄地)にも城/城跡はある。本書では100…

全国280箇所の「地方政府」

「日本地図シリーズ」第三弾は、幕末期の大名と藩に関するもの。著者の中嶋繁雄氏は歴史ノンフィクション作家。「廃藩置県」の前には、天領の他に全国に約280の藩が存在した。地方政府でもあったこの組織群について本書では、 ・当主と明治政府での地位(公…

どうしてそこが戦場になったか

本書は、昨日に引き続き「日本地図シリーズ」の第二弾。同じく武光教授に加えて、合戦研究会の皆さんが著者に加わっている。そこそこの勢力同士がぶつかり合ったものを合戦と定義しているようで、戦場が海外のものは除かれている。巻末にある日本合戦史には…

「いけず先生」による京女の歴史

2017年発表の本書は、NHK「いけずな京都旅」のコメンテータである国際日本文化研究センター井上章一教授の京都論。TV番組では軽妙に「いけず」と博識を披露している著者だが、てっきり文系研究者と思っていたら建築学の教授(建築史・意匠論)だった。確かに…

裏面から見た各国の悩み

2022年発表の本書は、国税調査官出身のフリーライター大村大次郎氏の「世界の歴史・経済論」。もちろん世界を動かしている最大のものは、イデオロギーや宗教、軍事力ではなく「お金」である。その視点から、通常表には出てこない真実がいくつも紹介されてい…

21世紀の科学でも解けない謎

2021年発表の本書は、欧州在住30年のジャーナリストの2人(片野優氏・須貝典子氏)が、欧州各地に残る「都市伝説」を13編集めたもの。不思議な話の連続で、多くのものは映画や小説によって紹介されている。ただ、僕も知らなかった話がいくつかあった。 ◆自…

海兵隊幹部から見た沖縄問題

2016年発表の本書は、日本文化にも造詣の深い政治学者で在沖縄海兵隊にも所属したことのあるロバート・D・エルドリッジの「オキナワ論」。沖縄にある米軍(専用)基地の再編や削減などについて、米軍も日本政府も失敗したという。例えば、最も大きな争点である…

タイムマシンで行く15の道

2016年発表の本書は、3人の歴史学者(*1)による京都の歴史探訪で、15の道を紹介している。ガイドブックにある「○○は何年に建立されました」的な紹介と、歴史書にある「このような時代で、××のために必要だった」的な解説を融合した書である。ある種の道や…

クライシスコミュニケーションの実例

本書は、戦後日本最大の危機だった東日本大震災と、それに伴って起きた福島第一原発事故の数日間を、TVメディアがどう伝えたかをダイジェストしたもの。筆者の伊藤守氏は、社会学専攻で早稲田大学メディア・シティズンシップ研究所所長。震災後1年経った201…

陸軍参謀本部作戦課長

服部卓四郎という名前は、何度も戦史・戦記の中で見ている。しかしどういう人物だったか、印象はあまりない。帝国陸軍のエリートとして、選択肢として常に強硬な方針を示し、結果として日本を破滅の淵に追いやったとされるが、そんな軍人は大勢いた。歴史に…

最初から強権的な独裁者だった

2年前の今日、世界の秩序を変えたプーチンのウクライナ侵攻が始まっている。本書は、その年の6月に軍事ジャーナリスト黒井文太郎氏が過去の記事も引用して、プーチンの所業からその正体に迫るべく発表したもの。著者の書は以前「イスラム国の正体」を紹介…

記者は何故戦場を目指すのか?

2021年発表の本書は、ジャーナリスト佐藤和孝氏の、現代アフガニスタンレポート。筆者は、2012年にシリアで取材中に銃撃されて亡くなったジャパンプレス山本美香氏の同僚であり、山本美香記念財団の代表理事でもある。40年間の記者生活を、アフガニスタン・…

習大人から見たウクライナ戦争

2022年発表の本書は、吉林省生まれで筑波大学の名誉教授遠藤誉氏(中国問題グローバル研究所長)のウクライナ戦争をめぐる大国の関係論。中国習近平主席の視点が強く、いわゆる西側の常識とは異なる主張も少なくない。主張ポイントを時系列的に整理すると、 …

生存者の口伝も交えた実録

「新選組」についてはこれまで、司馬遼太郎、池波正太郎の作品を紹介している。これらはいずれも小説だが、本書は1928年に作家子母澤寛が発表した実録である。作者は本書に続き「新選組異聞」「新選組物語」を発表、「新選組三部作」とした。この時代には、…

内政干渉が許される分野

2022年発表の本書は、スタンフォード大学社会学部教授筒井清輝氏の「普遍的人権」の入門書。サントリー学芸賞・石橋湛山賞を受賞した書である。著者は政治社会学が専門で、多くの学生と人権に関する議論をし、各国で人権侵害に抵抗した政治家や活動家を招い…