2019-01-01から1年間の記事一覧
SF小説の大家アイザック・アシモフは、本当にミステリーが好きで「黒後家蜘蛛の会」という短編集を5冊も出版している。以前紹介した「鋼鉄都市」(1953年)は背景こそSFなのだが、手法は本格ミステリーをなぞったものである。この作品は世界ミステリー…
現在の戦略兵器としては、国際関係上ほぼ使えない戦略核兵器を除けば、空母機動部隊が一番に挙げられるだろう。1941年末、南雲機動部隊が真珠湾で旧式戦艦7隻を撃沈破して以降、その地位は揺らいでいない。しかしいつかは空母機動部隊を破る「戦略兵器」が…
森村誠一はホテル業界に10年勤めた後、推理作家に転じた。第三作「新幹線殺人事件」は、緻密なアリバイトリックと地道な捜査を描いてベストセラーになった。新幹線車中で起きた第一の事件に続いては、高級ホテルが舞台となる第二の殺人が起きる。この作品に…
デビュー作「影の複合」(1982年)があまり売れず、第二作「時間の風蝕」(1983年)で盛り返した津村秀介は、第五作の本書(1984年発表)で、ついにレギュラー探偵浦上伸介を登場させる。以後、ほとんどの作品に伸介は登場するのだが、その姿(地味なブルゾ…
あまたのミステリーがあれど、ありそうでないのがプロスポーツマン自身が探偵役をする話。ハーラン・コーベンのマイロン・ボライターシリーズは確かにプロスポーツ界を舞台にしているが、探偵役のマイロンは引退したプロバスケットボール選手。ケガで引退し…
新潮文庫版の「813」を読んで、ルパンものの最高傑作と言われるこの作品にさほどの評価ができなかったことは、以前に紹介した。その中で、フランス文学界の重鎮の方の翻訳だったのも評価できない一因ではないかと述べた。しかし、重鎮の方に忖度して新訳…
富裕な奥さんと結婚したため、一時は医学の道を歩みながらも医師になることなく金銭的には不自由なく暮らす中年男ティム。彼の悩みは、奥さんの不倫とその相手が親友のブレイゼスであること。一方世間のニュース、特に殺人のニュースを見ても組織犯罪による…
フランスミステリーで悪女ものといえば、カトリーヌ・アルレーが思いつくが、本書のボアロー&ナルスジャックも古典の代表作家である。昨日紹介したモーリス・ルブランや、メグレ警部を生んだジョルジュ・シムノンくらいしかフランス作家を読んだことが無か…
奇術とミステリーには共通点が多い。いずれも聴衆や読者をあっと言わせてナンボの世界だし、いたずら心がないと上手くいかない。クレイトン・ロースンなどは奇術師を探偵役にした、読者を驚かせる作品を多く残した。日本のロースンと言えば、泡坂妻夫以外に…
名探偵の代名詞と言えば、シャーロック・ホームズだろう。1887年に「緋色の研究」でデビューして以来、作者コナン・ドイルの名は知らなくても、彼が創作したホームズの名を知らないものはいまい。ドイルはホームズものの諸作で「サー」の称号を得たが、なん…
1987年「オールド・ドッグ出撃せよ」でデビューしたデイル・ブラウンは、もともと米空軍のテストパイロット。本書にも出てくるF-111の多くのバリエーションに航法士として搭乗経験がある。デビュー作はその経験を活かしたもので、その精緻な航空機の運用描写…
中学生だった僕をミステリーの世界に引きずり込んだのは、「Xの悲劇」(バーナビー・ロス名義1932年発表)とそれを貸してくれた中学校の国語の先生である。中学校の図書館で、戦記ものやホームズ、ルパンものばかり読んでいるのを知っておられたのやもしれ…
SFの巨人アイザック・アシモフは、「ロボット(工学)三原則」を定めたことで有名だが、この原則に関して1940年から1950年までの10年間に書き続けた短編を集めたものが本書。最近映画化もされたのだが、第二次世界大戦中から書かれていたことに驚いた。 人…
以前、従来のパナマ運河を通行できる船は全幅32.3m以下であった、と書いた。その幅で46cm主砲を相当数積んだ軍艦は造れない。相応の数で無ければ可能か?もちろん可能である。巨砲を1門だけ積んだ軍艦というのも例はある。他ならぬ日本海軍に。 清国との緊…
弁護士作家である和久峻三の得意領域はもちろん法廷もの、「赤カブ検事シリーズ」など連作ものもあるがこれらはある意味ビジネスとして書いているものだろう。本当に書きたかったのは、本書のような裁判制度やその歴史に関してのものではないかと思う。 本書…
以前、美緒&壮シリーズや、「177文字の殺人」を紹介した、ミステリー作家の深谷忠記が最初に書いた長編ミステリーが本書である。1982年に江戸川乱歩賞の最終選考に残った作品で、作者はその後1985年の1万分の1ミリの殺人(別題:殺人ウィルスを追え)でサ…
ジョン・ル・カレという作家は、言うまでもなくスパイ小説界の大御所である。デビュー作「死者にかかってきた電話」はさほど売れなかったものの、第三作「寒い国から帰ってきたスパイ」はベストセラーになった。以降、「ティンカー・テイラー・ソルジャー・…
マイクル・Z・リューインのパウダー警部補シリーズは3作、本書で最後になった。インディアナポリスの貧しい私立探偵アルバート・サムスンシリーズが有名だが、マニアの中には哀愁を漂わせるパウダー警部補ものの方が好きだと言う人もいる。 サムスンものに…
クライブ・カッスラーは「NUMA」のダーク・ピットシリーズを卒業していくつか新機軸を出したが、その中でも面白いと思ったのが、「大破壊」のアイザック・ベルのシリーズ。「大破壊」はレイル・バロンと呼ばれた米国を覆う鉄道網の王者争いの終盤、それに介…
第一次世界大戦も、第二次世界大戦も、ドイツ海軍にとっての舞台は北大西洋だった。第二次世界大戦において大西洋に放たれた船の大半はUボートだった。日本海軍とは戦術思想の異なるドイツ海軍は、潜水艦の使い方を通商破壊戦に絞っていた。 本書はジョン・…
作者のクリス・ホルムは、エラリー・クイーンズ・ミステリマガジン(EQMM)出身の作家。本書以前にクライムファンタジーと評価される「コレクター三部作」を発表している。読んだことはないが、サイコサスペンスのようなもの(僕のあまり好きでないジャンル…
フリーマン・ウィルズ・クロフツは英国の鉄道技師だったが、体調を崩して仕事を休んでいた時にミステリーに目覚めた。このあたり、米国の美術評論家ウィラード・ハンチントン・ライトとよく似ている。ライトはその後、S.S.ヴァン・ダインという筆名でファイ…
以前「裁くのは俺だ」を紹介したが、その作品でデビューしたのがバイオレンス作家のミッキー・スピレーンとその主人公マイク・ハマー。本書はマイク・ハマーものの5作目にあたる。書評では通俗的なハードボイルドの亜流と紹介され、タブロイド紙専科のよう…
「ベルリン・ゲーム」「メキシコ・セット」に続く、「スパイ小説の詩人」レン・デイトンの三部作の完結編が本書(1985年発表)。主人公バーナード・サムスンは、前作で目標だったKGBのシュティンネス少佐の身柄を確保する。「ゲーム」では一敗地にまみれた彼…
作者の上野正彦医師は、「死体は語る」などの著書で知られる元監察医。東京都監察医務医院長を最後に職を退き、書いたこれらの諸作が、法医学の書としては異例のベストセラーになった。僕自身も、珍しくハードカバー本を買って読んだものだ。 クラシックスタ…
著者は防衛省から民間企業をいくつか経験して、現在はNTTホールディングス勤務。お堅い旧「電電公社」の本丸に、初めて中途採用された女性だと聞いている。サイバーセキュリティというと、デジタル言語しか話せない「理系クン」の領域と思われがちだが彼女は…
シリーズものならいざ知らず、全く新しい作者・作品で、小説として出版される前にTVもしくは映画になることは多くない。ところが本書に収められている長めの中編のひとつ「ラスヴェガスの吸血鬼」は、フリージャーナリストであった(当時26歳の)ジェフ・…
シャーロック・ホームズものでおなじみ、サーの称号も貰ったコナン・ドイルはSFものにも興味を示しもう一人の主人公チャレンジャー教授を生み出した。長身でノーブルなホームズに比べ、類人猿と間違えられそうな外観、短躯で毛むくじゃらという人好きされ…
以前「悪党パーカー/人狩り」を紹介した、リチャード・スタークの「悪党パーカーシリーズ」の21世紀になってから書かれたものが本書(2001年発表)。「人狩り」が1962年の作品で、以降15冊が出版されたが1974年の「殺戮の月」で一旦終了していた。それが199…
3年前に亡くなった夏樹静子の代表作が本書。彼女の本名は出光静子、新出光の会長夫人でもあった。慶応義塾大学在学中からミステリーを書き、乱歩賞候補になったことからTVの推理クイズのレギュラーライターも務めた。大学卒業後結婚し夫と共に福岡に移り、…