新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

変格ミステリー

発狂した判事と変わったビジネス

1905年発表の本書は、以前<ブラウン神父もの>や「知りすぎた男」を紹介したG・K・チェスタトン初期の短編集。全く新しいビジネスを創造することで入会できる<奇商クラブ>についての短編6編と、短編「背信の塔」中編「驕りの樹」が収められている。<奇商…

サグラダファミリアを超える夢

本書(1999年発表)は、「刑事コロンボ」シリーズの比較的新しい作品。このシリーズは1968年から7シーズンと、1989年から3シーズン+スペシャル版で2003年まで新作放映は続いた。デビュー作「殺人処方箋」の頃には41歳だった主演のピーターフォークは、80…

ルパン、20歳の冒険

フランスの作家モーリス・ルブランが、いかにもフランスらしい「名探偵」アルセーヌ・ルパンを世に送り出したのは、1905年だった。神出鬼没で変幻自在な強盗紳士、警察のハナ先から貴重なものを失敬するヒーローである。多くの作品が書かれ、のちに「ルパン三…

お多福の女検事霞夕子

本書は、以前「Wの悲劇」を紹介した夏樹静子の中編集。作者にはもう一人ハーフの女弁護士朝吹里矢子のシリーズがあるが、これは女検事「霞夕子シリーズ」。彼女は検察官、それも捜査主任検事だ。40歳代前半の彼女は、寺の住職である夫を持つ。小柄で風采が…

ホワイトハウスの殺人狂<我々>

ちょっと変わった作家ビル・プロンジーニは、「名無しの探偵」シリーズが有名だが、これも単純なハードボイルドで割り切れない「奇妙な味」を持った連作である。作者はほかに何人かの作家と合作をしていて、その中でも多いのが本書(1977年発表)の共著者バ…

英仏ヒーローの知恵比べ

20世紀初頭、フランスミステリー界をリードしたのがモーリス・ルブランの「アルセーヌ・ルパンもの」。ガストン・ルルー「黄色い部屋の謎」などフランスの古典ミステリーも質的には評価が高いが、英米に比べると数では劣る。それをカバーしたのが「ルパンも…

二つの日記、二人の訳者

1992年発表の本書は、南仏カンヌ出身の女流作家ブリジット・オペールのデビュー作。裏表紙の解説に「フランスの新星によるトリッキーなデビュー作」と紹介されていたので、知らない作者だったが買ってみることにした。「トリッキー」とう言葉に僕は弱い。た…

最後の1行の衝撃

意外なことだが、ロアルド・ダールの作品を紹介するのは初めて。本書も高校生の頃に一度読んで、衝撃を受けた記憶がある。本書の中の「南から来た男」などは、細かな点まで覚えていた。実は、本書は50年前に読んだものとは違う新訳。訳者の田口俊樹は解説の…

これは・・・完全犯罪だ

東野圭吾の「湯川学もの」の第二長編が本書。2006~2008年にかけて「オール読物」に連載された作品である。前作「容疑者Xの献身」の紹介時に述べたように、天才型名探偵を長編ミステリーで活躍させるのは難しい。前作では石神というもう一人の天才を相手方…

完全犯罪に対するスタンス

最も成功した完全犯罪とは、露見しなかった犯罪である。犯罪があったことに気付かれなければ、捜査も行われず、罪に問われることもない。普通のミステリーは、犯罪が露見してからの難題(アリバイ・密室・凶器・動機等々)を探偵役が解いてゆくプロセスを追…

コロンボ、ハッカーに挑む

本書(1994年発表)は、W・リンク&R・レビンソンの刑事コロンボシリーズの1冊。TV放映されたかどうかの説明はないが、僕自身は見た記憶はない。コロンボ警部が犯罪学の講義をしに行くという話は他にもあったが、本書の舞台はフリーモント大学の法学教室。同…

倒叙のような倒叙でないような

リチャード・ハルという作家は、長編ミステリー15作を発表しながら、邦訳されたのは3作だけ。 1935年 伯母殺人事件 1935年 他言は無用(本書) 1938年 善意の殺人 「伯母殺人事件」はデビュー作ながら、大きなセンセーションを巻き起こした作品で、いまでも…

シャロン・テート事件の20年後

本書は、「放映されなかったコロンボもの」のひとつ。以前「13秒の罠」もそうだと紹介している。その作品は、いつものW・リンク&R・レビンソンではない作者だった。本書はいつもの二人に加えて、ウィリアム・ハリントンが著者欄に名を連ねている。恐らくはこ…

主役の陰に隠れる名探偵

英国ミステリー界の重鎮、クリスチアナ・ブランドの代表的な短編を集めたのが本書。作者は日本のミステリー読者にはあまりなじみがないかもしれないのは、それほど多作家でもなく、邦訳されたものはもっと少ないからかもしれない。 レギュラー探偵として一番…

4つの結末が必要・・・

あまり日本では有名とはいえない著述家レオ・ブルース、英国生まれで100冊以上の幅広いジャンルの著作があるが、一番多いのが本書のようなミステリー。1936年発表の本書がデビュー作で、ある意味非常に人を食ったような作品である。 テーマは「推理の競演」…

おじさん刑事の肖像

「刑事コロンボ」のシリーズは、大体富豪なり有名人なりが犯人役になる。様々な職業のカッコいい犯人に、ボロ車・ボロコート・猫背で貧相なコロンボ警部が挑むという映像的な面白さがある。今回の犯人役は、高名な画家。カリフォルニアの海岸べりにアトリエ…

ミステリー作家の楽屋裏

先日ミステリー界の「当代一の読み手」と紹介した佐野洋の「同名異人の4人が死んだ」の評に、推理作家って大変なんだと書いた。犯罪を扱うものだけに、万一にも現実の何かを想起させてはいけない。特に人名の扱いには、慎重の上にも慎重をとのスタンスがに…

初期のポラロイドカメラ

本書は「刑事コロンボ」全60余話の中でも、ベスト10級の名作と言われる作品。主人公(犯人のこと)が高名なカメラマンであったことと、表紙の絵にある古いポラロイドカメラが重要な役割を果たしていることから、僕の印象に残った作品でもある。 放映は1975年…

被害者の肖像

いわゆるミステリーベストxxを選ぶと、かつてはベスト30くらいには必ず入っていたのが本書。モスクワ特派員などを経験したジャーナリストが、1950年に発表したものだ。アンドリュー・ガーヴは英国人、本書の前に習作ミステリー数編を発表した後、本格的に作…

Scilly諸島での冒険譚

アンドリュー・ガーヴは、本格ミステリー「ヒルダよ眠れ」でデビューした。被害者ヒルダは良妻賢母だった、なぜ殺されたのか?この謎を追う探偵役の前で、被害者のイメージが崩れていく過程がとても面白いサスペンス調の作品だった。 しかし作者はその後、本…

フランス流の皮肉2冊分

フレッド・カサックはパリ出身の作家、全部で7作の短めの長編小説を残した。1957年「死よりも苦し」でデビュー、大半の作品を1950年代に発表している。そのうち「日曜日は埋葬しない」でフランス推理小説大賞を受賞している。本書は、その前後に発表された…

幻となった「コロンボ講話」

刑事コロンボものは、ほとんどリチャード・レビンソンとウィリアム・リンクの合作によるものだ。ところがわずかに別の著者による原作があって、本書はそのひとつ。作者はアルフレッド・ローレンスである。・・・しかし実はこの作品、TVドラマ化されているもので…

ちょっと変わった倒叙推理

本書は、2ヵ月前に紹介した大谷羊太郎の「八木沢刑事もの」の一編。作者はトリックメーカーとして知られ、奇抜な手法のミステリーを多く発表している。この多くというのが曲者で、日本の近代ミステリー作家は多作が過ぎると僕などは思う。かって精緻な本格…

シェークスピア劇の異邦人

よれよれレインコートでフケと葉巻の灰をまき散らすやぶにらみの小男、とても探偵役には似つかわしくないのだがそれが難事件を鮮やかに解決する・・・という「刑事コロンボ」シリーズ。主演のピーター・フォークは片目が義眼の、もともとはチンピラ役が多かった…

犯人探しではなく・・・

普通のミステリーは、殺人のような重大事件があり、探偵役が登場して事件を調査し、最後に犯人(たち)を名指しないしは逮捕して終わる。Why、Howという謎もあるのだが、「WHO done it?」と言うのが主流。しかし本書(1946年発表)でデビューしたパトリシア…

2,000年間「悪魔」を追って

エドワード・D・ホックは膨大な短編ミステリーを書いた。以前怪盗ニック・ヴェルヴェットのシリーズを紹介しているが、彼は依頼を受ければなんでも盗むのだが「価値のないもの」に限るという変わったビジネススタイルを貫いている。盗むのは例えば、古新聞・…

観てから読むことになり

在宅勤務が続いていて、本の読み方も変わってきた。これまで半分以上のページは往復の新幹線車内か、近距離・遠距離を問わず移動中に読んでいる。もちろん欧米便のフライトの中ということもある。ところが移動時間というのがほとんど無くなってしまし、今はT…

悪女の皮肉な戦い

パトリシア・マガーは本格手法での変格ミステリーを得意とした作家だと、以前紹介した。彼女は大学でジャーナリズムを専攻、道路建設協会の広告部勤務を経て「建設技術」という雑誌の編集を担当、戦後間もない1946年に「被害者を探せ」でデビューしている。…

ミステリーTVドラマの金字塔

リチャード・レビンソン&ウィリアム・リンクはユニバーサルTVのプロデューサー。コンビを組んでいくつものTVシリーズを書き、TVのオスカーである「エミー賞」の最優秀脚本賞を2度受賞している。彼らの脚本で日本で一番よく知られたのは「刑事コロンボ」だ…

桂冠詩人セシル・デイ・ルイス

ミステリーのカタログや裏表紙などに、簡単な内容紹介が載っている。これが、書籍を買うかどうかの判断材料になることは多い。本格ミステリー好きのNINJA青年は「xxミステリー100選」などという書評とともに、内容紹介文を見て購入する優先順位をつけてい…