変格ミステリー
1965年発表の本書は、以前「見知らぬ乗客」「殺意の迷宮」などを紹介したパトリシア・ハイスミスのラブサスペンス。若い(精々40歳まで)男女の愛憎から事件に発展する物語が、作者の得意とするところ。名探偵や残虐なシーンは登場しない。普通の幸福に見え…
1945年発表の本書は、以前「暗闇へのワルツ」「暁の死線」「幻の女」などを紹介したサスペンス作家ウイリアム・アイリッシュ(コーネル・ウールリッチ)が第三の筆名ジョージ・ハプリイ名義で発表したもの。ウールリッチ名義で黒をモチーフにした復讐譚や犯…
1956年発表の本書は、以前「始まりはギフトショップ」を紹介したシャーロット・アームストロングの代表作。米国探偵作家クラブ賞の長編賞を受賞している。作者は劇作家出身で、30作の長編ミステリーを遺したが邦訳されたものは多くない。 「始まり・・・」は青…
本書は「刑事コロンボ」の放映シリーズの中でも評判が高かったものだが、なぜかノベライゼーションが遅れて、2000年にようやく出版されたもの。原作もノベライゼーションも同じ、W・リンクとR・レビンソンである。 「Gifted」と呼ばれる優秀な子供たちを英才教…
本書は、何気なくBook-offの棚から手に取って買って帰った。作者の名前も知らず、ただ本格ミステリー短編集だろうなと思ったくらいだったのだが、解説を読んでびっくりした。ドロシー・L・セイヤーズが挙げた名探偵の系譜の中に、本書の主人公モリス・クロウが…
1931年発表の本書は、「クロイドン発12時30分」「伯母殺人事件」と並んで倒叙推理3大古典と言われるフランシス・アイルズの傑作。作者は他に3つのペンネームを持ち、アントニー・バークリー名義での「毒入りチョコレート事件*1」も名作である。 田舎町に住…
1947年発表の本書は、以前「被害者を探せ」「探偵を探せ」などを紹介したパット・マガーの最高傑作とされる作品。高名な評論家中島河太郎が1951年に発表したミステリーベスト10で、7位(*1)に入っている。作者は「被害者・・・」でデビューし、普通のミステリ…
1994年発表の本書は、以前SFホラー「アイアム・レジェンド」と短篇集「運命のボタン」を紹介した、奇抜なストーリーテラーであるリチャード・マシスンの奇術ミステリー。回想シーン以外は、全て「偉大なるデラコート~神秘に触れる男」の異名をとった奇術師…
本書は以前「幻の女」などを紹介したウィリアム・アイリッシュが、コーネル・ウールリッチ名義で1948年に発表したもの。詩のような美文調と哀愁を帯びたサスペンスが特徴の作者だが、サスペンスにもいろいろな種類がある。本書は、不幸な事件で恋人を亡くし…
1935年発表の本書は、ずっと探していた「倒叙推理3大傑作」のひとつである。作者のリチャード・ハルは以前「他言は無用」を紹介しているが、15作中邦訳は3作だけ。本書は「傑作」とされながら学生の頃には絶版になっていて、読めずにいたものだ。 ウェール…
1905年発表の本書は、以前<ブラウン神父もの>や「知りすぎた男」を紹介したG・K・チェスタトン初期の短編集。全く新しいビジネスを創造することで入会できる<奇商クラブ>についての短編6編と、短編「背信の塔」中編「驕りの樹」が収められている。<奇商…
本書(1999年発表)は、「刑事コロンボ」シリーズの比較的新しい作品。このシリーズは1968年から7シーズンと、1989年から3シーズン+スペシャル版で2003年まで新作放映は続いた。デビュー作「殺人処方箋」の頃には41歳だった主演のピーターフォークは、80…
フランスの作家モーリス・ルブランが、いかにもフランスらしい「名探偵」アルセーヌ・ルパンを世に送り出したのは、1905年だった。神出鬼没で変幻自在な強盗紳士、警察のハナ先から貴重なものを失敬するヒーローである。多くの作品が書かれ、のちに「ルパン三…
本書は、以前「Wの悲劇」を紹介した夏樹静子の中編集。作者にはもう一人ハーフの女弁護士朝吹里矢子のシリーズがあるが、これは女検事「霞夕子シリーズ」。彼女は検察官、それも捜査主任検事だ。40歳代前半の彼女は、寺の住職である夫を持つ。小柄で風采が…
ちょっと変わった作家ビル・プロンジーニは、「名無しの探偵」シリーズが有名だが、これも単純なハードボイルドで割り切れない「奇妙な味」を持った連作である。作者はほかに何人かの作家と合作をしていて、その中でも多いのが本書(1977年発表)の共著者バ…
20世紀初頭、フランスミステリー界をリードしたのがモーリス・ルブランの「アルセーヌ・ルパンもの」。ガストン・ルルー「黄色い部屋の謎」などフランスの古典ミステリーも質的には評価が高いが、英米に比べると数では劣る。それをカバーしたのが「ルパンも…
1992年発表の本書は、南仏カンヌ出身の女流作家ブリジット・オペールのデビュー作。裏表紙の解説に「フランスの新星によるトリッキーなデビュー作」と紹介されていたので、知らない作者だったが買ってみることにした。「トリッキー」とう言葉に僕は弱い。た…
意外なことだが、ロアルド・ダールの作品を紹介するのは初めて。本書も高校生の頃に一度読んで、衝撃を受けた記憶がある。本書の中の「南から来た男」などは、細かな点まで覚えていた。実は、本書は50年前に読んだものとは違う新訳。訳者の田口俊樹は解説の…
東野圭吾の「湯川学もの」の第二長編が本書。2006~2008年にかけて「オール読物」に連載された作品である。前作「容疑者Xの献身」の紹介時に述べたように、天才型名探偵を長編ミステリーで活躍させるのは難しい。前作では石神というもう一人の天才を相手方…
最も成功した完全犯罪とは、露見しなかった犯罪である。犯罪があったことに気付かれなければ、捜査も行われず、罪に問われることもない。普通のミステリーは、犯罪が露見してからの難題(アリバイ・密室・凶器・動機等々)を探偵役が解いてゆくプロセスを追…
本書(1994年発表)は、W・リンク&R・レビンソンの刑事コロンボシリーズの1冊。TV放映されたかどうかの説明はないが、僕自身は見た記憶はない。コロンボ警部が犯罪学の講義をしに行くという話は他にもあったが、本書の舞台はフリーモント大学の法学教室。同…
リチャード・ハルという作家は、長編ミステリー15作を発表しながら、邦訳されたのは3作だけ。 1935年 伯母殺人事件 1935年 他言は無用(本書) 1938年 善意の殺人 「伯母殺人事件」はデビュー作ながら、大きなセンセーションを巻き起こした作品で、いまでも…
本書は、「放映されなかったコロンボもの」のひとつ。以前「13秒の罠」もそうだと紹介している。その作品は、いつものW・リンク&R・レビンソンではない作者だった。本書はいつもの二人に加えて、ウィリアム・ハリントンが著者欄に名を連ねている。恐らくはこ…
英国ミステリー界の重鎮、クリスチアナ・ブランドの代表的な短編を集めたのが本書。作者は日本のミステリー読者にはあまりなじみがないかもしれないのは、それほど多作家でもなく、邦訳されたものはもっと少ないからかもしれない。 レギュラー探偵として一番…
あまり日本では有名とはいえない著述家レオ・ブルース、英国生まれで100冊以上の幅広いジャンルの著作があるが、一番多いのが本書のようなミステリー。1936年発表の本書がデビュー作で、ある意味非常に人を食ったような作品である。 テーマは「推理の競演」…
「刑事コロンボ」のシリーズは、大体富豪なり有名人なりが犯人役になる。様々な職業のカッコいい犯人に、ボロ車・ボロコート・猫背で貧相なコロンボ警部が挑むという映像的な面白さがある。今回の犯人役は、高名な画家。カリフォルニアの海岸べりにアトリエ…
先日ミステリー界の「当代一の読み手」と紹介した佐野洋の「同名異人の4人が死んだ」の評に、推理作家って大変なんだと書いた。犯罪を扱うものだけに、万一にも現実の何かを想起させてはいけない。特に人名の扱いには、慎重の上にも慎重をとのスタンスがに…
本書は「刑事コロンボ」全60余話の中でも、ベスト10級の名作と言われる作品。主人公(犯人のこと)が高名なカメラマンであったことと、表紙の絵にある古いポラロイドカメラが重要な役割を果たしていることから、僕の印象に残った作品でもある。 放映は1975年…
いわゆるミステリーベストxxを選ぶと、かつてはベスト30くらいには必ず入っていたのが本書。モスクワ特派員などを経験したジャーナリストが、1950年に発表したものだ。アンドリュー・ガーヴは英国人、本書の前に習作ミステリー数編を発表した後、本格的に作…
アンドリュー・ガーヴは、本格ミステリー「ヒルダよ眠れ」でデビューした。被害者ヒルダは良妻賢母だった、なぜ殺されたのか?この謎を追う探偵役の前で、被害者のイメージが崩れていく過程がとても面白いサスペンス調の作品だった。 しかし作者はその後、本…