新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

変格ミステリー

コロンボ警部、健康法に悩まされる

1974年発表の本書は、久しぶりに未読作品を見つけたW・リンク&R・レビンソンの<刑事コロンボもの>。健康ブームのロサンゼルスで、アスレチック・クラブのオーナーであるユージンがバーベルの下敷きとなって死んだ。彼は自らのクラブも属するスポーツコング…

ブラッドストーンの切り裂き魔

1976年発表の本書は、ビル・プロンジーニとバリー・N・マルツバーグの共作スリラー。2人の共作は「裁くのは誰か?*1」を以前紹介しているが、邦訳こそ「裁く・・・」が早いが、最初に2人が共作したのは本書である。 エセックス郡ブラッドストーンでは、この夏か…

世界で初めての倒叙短編集

本書は何冊か紹介している、創元社の<ホームズのライバルもの>の短編集。中でも本書は、ミステリー史で初めての「倒叙短編集」である。犯人の側から犯行を描き、捜査陣が姦計のほころびを突いて有罪を示す(コロンボ警部や古畑任三郎の)あのパターンであ…

<幻影城>連載の騙し絵

本書は、奇術師作家泡坂妻夫の第三長編。すでに「11枚のとらんぷ」「乱れからくり」を紹介しているが、前2作にも増して300ページまるごとの騙し絵に仕上がっている。短い期間マニアの熱い視線を浴びた雑誌<幻影城>に、1978年に連載された作品である。 東…

コロンボ警部、歯痛に悩まされる

1974年発表の本書は、W・リンク&R・レビンソンが脚本も書いた<刑事コロンボもの>。なぜかTVでの放映はされず、ノーベライゼーションとして出版されている。「幻のシナリオ」に終わった理由はいくつか考えられる。 ・シナリオ自体が長すぎる ・カリブ海ロ…

一卵性双生児のトリック

1973年発表(&放映)の本書は、W・リンク&R・レビンソンの<刑事コロンボもの>のノーベライゼーション。コロンボ警部と言えば、 ・よれよれのレインコート(カリフォルニアではまずお目にかからない) ・安葉巻を吸って灰をまき散らす ・廃車寸前のボロプ…

身代金50万ドルの行方

久しぶりに<刑事コロンボもの>の未読作品が3冊まとめて手に入った。いずれもW・リンク&R・レビンソンの手になるノーベライゼーションで、今日から3日間で紹介したい。1972年発表の本書は、脚本が「処刑6日前」などのサスペンスで鳴らした作家ジョナサ…

コロンボものの未製作台本

昨年<刑事コロンボ>シリーズで、なぜかノベライゼーションが遅れた作品「殺しの序曲」を紹介した。本書はそれよりも珍しいもの、1975年に台本は出来ていたものの未製作に終わったのだが、その原稿を二見書房が翻訳出版(2003年)している。 甥っ子2人を連…

悪女は千の顔をもつ

1985年発表の本書は、以前「わらの女」「死の匂い」などを紹介したフランスのサスペンス&ノワール作家カトリーヌ・アルレーの短編集。300ページの中に21の短編が収められていて、中には3ページで終わるショート・ショートもある。作風もまちまち、SF・ホラ…

ミステリー作家の空想が呼ぶ事件

1965年発表の本書は、以前「見知らぬ乗客」「殺意の迷宮」などを紹介したパトリシア・ハイスミスのラブサスペンス。若い(精々40歳まで)男女の愛憎から事件に発展する物語が、作者の得意とするところ。名探偵や残虐なシーンは登場しない。普通の幸福に見え…

死を告げられた男とその娘

1945年発表の本書は、以前「暗闇へのワルツ」「暁の死線」「幻の女」などを紹介したサスペンス作家ウイリアム・アイリッシュ(コーネル・ウールリッチ)が第三の筆名ジョージ・ハプリイ名義で発表したもの。ウールリッチ名義で黒をモチーフにした復讐譚や犯…

悪意の全くないサスペンス

1956年発表の本書は、以前「始まりはギフトショップ」を紹介したシャーロット・アームストロングの代表作。米国探偵作家クラブ賞の長編賞を受賞している。作者は劇作家出身で、30作の長編ミステリーを遺したが邦訳されたものは多くない。 「始まり・・・」は青…

8人の天才たちvs.コロンボ

本書は「刑事コロンボ」の放映シリーズの中でも評判が高かったものだが、なぜかノベライゼーションが遅れて、2000年にようやく出版されたもの。原作もノベライゼーションも同じ、W・リンクとR・レビンソンである。 「Gifted」と呼ばれる優秀な子供たちを英才教…

サイコメトリー探偵の先駆者

本書は、何気なくBook-offの棚から手に取って買って帰った。作者の名前も知らず、ただ本格ミステリー短編集だろうなと思ったくらいだったのだが、解説を読んでびっくりした。ドロシー・L・セイヤーズが挙げた名探偵の系譜の中に、本書の主人公モリス・クロウが…

これは殺人じゃない、妻殺しじゃない

1931年発表の本書は、「クロイドン発12時30分」「伯母殺人事件」と並んで倒叙推理3大古典と言われるフランシス・アイルズの傑作。作者は他に3つのペンネームを持ち、アントニー・バークリー名義での「毒入りチョコレート事件*1」も名作である。 田舎町に住…

長女クララと6人の妹

1947年発表の本書は、以前「被害者を探せ」「探偵を探せ」などを紹介したパット・マガーの最高傑作とされる作品。高名な評論家中島河太郎が1951年に発表したミステリーベスト10で、7位(*1)に入っている。作者は「被害者・・・」でデビューし、普通のミステリ…

偉大な、神秘に触れる男

1994年発表の本書は、以前SFホラー「アイアム・レジェンド」と短篇集「運命のボタン」を紹介した、奇抜なストーリーテラーであるリチャード・マシスンの奇術ミステリー。回想シーン以外は、全て「偉大なるデラコート~神秘に触れる男」の異名をとった奇術師…

5月末日、5つのサスペンス

本書は以前「幻の女」などを紹介したウィリアム・アイリッシュが、コーネル・ウールリッチ名義で1948年に発表したもの。詩のような美文調と哀愁を帯びたサスペンスが特徴の作者だが、サスペンスにもいろいろな種類がある。本書は、不幸な事件で恋人を亡くし…

三大倒叙推理の傑作

1935年発表の本書は、ずっと探していた「倒叙推理3大傑作」のひとつである。作者のリチャード・ハルは以前「他言は無用」を紹介しているが、15作中邦訳は3作だけ。本書は「傑作」とされながら学生の頃には絶版になっていて、読めずにいたものだ。 ウェール…

発狂した判事と変わったビジネス

1905年発表の本書は、以前<ブラウン神父もの>や「知りすぎた男」を紹介したG・K・チェスタトン初期の短編集。全く新しいビジネスを創造することで入会できる<奇商クラブ>についての短編6編と、短編「背信の塔」中編「驕りの樹」が収められている。<奇商…

サグラダファミリアを超える夢

本書(1999年発表)は、「刑事コロンボ」シリーズの比較的新しい作品。このシリーズは1968年から7シーズンと、1989年から3シーズン+スペシャル版で2003年まで新作放映は続いた。デビュー作「殺人処方箋」の頃には41歳だった主演のピーターフォークは、80…

ルパン、20歳の冒険

フランスの作家モーリス・ルブランが、いかにもフランスらしい「名探偵」アルセーヌ・ルパンを世に送り出したのは、1905年だった。神出鬼没で変幻自在な強盗紳士、警察のハナ先から貴重なものを失敬するヒーローである。多くの作品が書かれ、のちに「ルパン三…

お多福の女検事霞夕子

本書は、以前「Wの悲劇」を紹介した夏樹静子の中編集。作者にはもう一人ハーフの女弁護士朝吹里矢子のシリーズがあるが、これは女検事「霞夕子シリーズ」。彼女は検察官、それも捜査主任検事だ。40歳代前半の彼女は、寺の住職である夫を持つ。小柄で風采が…

ホワイトハウスの殺人狂<我々>

ちょっと変わった作家ビル・プロンジーニは、「名無しの探偵」シリーズが有名だが、これも単純なハードボイルドで割り切れない「奇妙な味」を持った連作である。作者はほかに何人かの作家と合作をしていて、その中でも多いのが本書(1977年発表)の共著者バ…

英仏ヒーローの知恵比べ

20世紀初頭、フランスミステリー界をリードしたのがモーリス・ルブランの「アルセーヌ・ルパンもの」。ガストン・ルルー「黄色い部屋の謎」などフランスの古典ミステリーも質的には評価が高いが、英米に比べると数では劣る。それをカバーしたのが「ルパンも…

二つの日記、二人の訳者

1992年発表の本書は、南仏カンヌ出身の女流作家ブリジット・オペールのデビュー作。裏表紙の解説に「フランスの新星によるトリッキーなデビュー作」と紹介されていたので、知らない作者だったが買ってみることにした。「トリッキー」とう言葉に僕は弱い。た…

最後の1行の衝撃

意外なことだが、ロアルド・ダールの作品を紹介するのは初めて。本書も高校生の頃に一度読んで、衝撃を受けた記憶がある。本書の中の「南から来た男」などは、細かな点まで覚えていた。実は、本書は50年前に読んだものとは違う新訳。訳者の田口俊樹は解説の…

これは・・・完全犯罪だ

東野圭吾の「湯川学もの」の第二長編が本書。2006~2008年にかけて「オール読物」に連載された作品である。前作「容疑者Xの献身」の紹介時に述べたように、天才型名探偵を長編ミステリーで活躍させるのは難しい。前作では石神というもう一人の天才を相手方…

完全犯罪に対するスタンス

最も成功した完全犯罪とは、露見しなかった犯罪である。犯罪があったことに気付かれなければ、捜査も行われず、罪に問われることもない。普通のミステリーは、犯罪が露見してからの難題(アリバイ・密室・凶器・動機等々)を探偵役が解いてゆくプロセスを追…

コロンボ、ハッカーに挑む

本書(1994年発表)は、W・リンク&R・レビンソンの刑事コロンボシリーズの1冊。TV放映されたかどうかの説明はないが、僕自身は見た記憶はない。コロンボ警部が犯罪学の講義をしに行くという話は他にもあったが、本書の舞台はフリーモント大学の法学教室。同…