新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

2023-08-01から1ヶ月間の記事一覧

西洋文明の行き詰まりを打破

2021年発表の本書は、何冊も紹介しているVoice編集部編の世界の賢人もの。今回は東洋の賢人たち6人が登場する。欧州の賢人たちも、西洋文明の行き詰まりは認めていて、反グローバリズムや反テクノロジー、倫理への回帰などを訴えているが、東洋の賢人たちの…

ジュール・ヴェルヌの予言

「80日間世界一周」を書いた作家のジュール・ヴェルヌは、「いつの日か人類は、80時間で世界一周ができるようになる」と予言したらしい。本書は、それをやってみようと企み、実際に成し遂げたルポである。ただ最後に「実は87時間かかりまして、80時間台での…

移民問題の地道な解決策

いわゆる「西側」欧米諸国を揺るがしているのは、殺到する移民・難民問題。ロシアが難民を意図してNATO諸国に送り込んで、政情不安を狙っているとも伝えられる。 もはや「兵器」と化した難民 - Cyber NINJA、只今参上 (hatenablog.com) 適度に広い海で大陸と…

問題の根源は「日本人の心」

2019年発表の本書は、雇用ジャーナリスト海老原嗣生氏の日本の年金制度論。少子高齢社会になって多くの人が不安を持つ年金問題は、実は日本人の心の問題(病?)だという。年金問題が大きく取り上げられる背景は、政治闘争によるもの。それをメディアが拡幅…

勇気をもって真実を語る

本書は、派閥も無くしてニュースに取り上げられることも少なくなったのに、未だに「次の総理は誰」アンケートで3本の指に入る自民党石破茂議員の近著。<デイリー新潮誌>に2021年2月から1年間にわたって連載したコラムを、1冊の本にまとめたもの。菅~…

長編本格ミステリーの嚆矢

E・A・ポーが創始したミステリーという分野、基本は短編小説だった。奇怪な事件や深まる謎を前に、天才的な探偵役が登場して明晰な推理を見せる。読者が驚きを冷めさせないうちに、物語は終わる。いくつかの例外を除けば、ホームズ譚のようにミステリーは短編…

ヘンリ・ティベット主任警部登場

英国ではアガサ・クリスティの後継者と言われた女流作家が、戦後何人か出た。そのうちの一人が、本書(1965年発表)の作者パトリシア・モイーズ。正統的なミステリー手法で、スコットランドヤードの主任警部ヘンリ・ティベットと妻エミーの物語を20作ほど遺…

リカーディアン団体の勉強会

昨日「時の娘」を紹介したが、1974年発表の本書はそれをオマージュした作品。テューダー朝ヘンリー7世やトマス・モア、シェイクスピアらによって構築されたリチャード3世の冤罪は、20世紀後半には晴らされつつあった。本書は、舞台をリチャードを信奉する…

改ざんされた歴史に挑む警部

1485年の8月、英国の薔薇戦争のクライマックス「ボズワースの戦い」が行われた。ヨーク派リチャード3世とランカスター派リッチモンド伯(後のヘンリー7世)が戦い、リチャード3世が戦死している。リチャード3世はくる病に加えてポリオを患い体が不自由…

ハイブリッド戦争の最前線

昨日NTTHDの横浜CISOの近著「サイバーセキュリティ戦記」を紹介したのだが、本書も最新刊、横浜氏のチームのストラテジスト松原実穂子氏のウクライナ紛争レポートである。著者は、防衛庁から複数の企業を経験して現職にある。昨年度の「正論大賞:新風賞」の…

日本企業も捨てたものではないよ!

本書は、日本のサイバーセキュリティ業界で高名な横浜信一氏の近著(2023年発表)。著者はNTTHDのCISOであり、グループ30万人のサイバーセキュリティを司る一方、業界団体や国際会議の場の常連。僕自身何度もお世話になっていて、本書を出版早々送っていただ…

<泥沼の家>の命運を賭けて

2016年発表の本書は、これまで「窓際のスパイ」「死んだライオン」を紹介したミック・ヘロンの<泥沼の家>シリーズ第三作。英国情報部の落ちこぼれが送られる組織<泥沼>には、アル中、ヤク中、仲間に暴力、大ドジを踏むなど各所で持て余した諜報員や管理…

本書の発表から1年半

本書は、以前「令和の国防」「歴史の教訓」を紹介した元外交官兼原信克氏の近著。2022年末の出版で、内容としては紹介した両著書をなぞるものとなっている。前2作はそれなりの関心を持って読んだのだが、今年初め「正論」の会合に出席して、僕自身ちょっと…

選挙特番・国会中継に映らないこと

「パリ研修」など国会議員の外遊増に批判が集まっている。国会議員については、一般人は選挙特番や国会中継、精々政治討論番組で目にするくらいだ。その実態と課題、改善策について記されているのが本書(2022年発表)。著者の濱本真輔氏は大阪大学准教授(…

浅見刑事局長、防衛産業不正に挑む

本書は、多作家内田康夫の「浅見光彦もの」。1998~99年にかけて<文芸春秋>に連載されたもの。いつもは光彦の厳しいお目付け役ながら、ちょっとしか出番のない兄浅見陽一郎刑事局長が大活躍する。 美しい利尻富士や美味しいウニなどの観光資源を持つ利尻島…

豪州を人質に取って

本書(全6巻)は、ご存じ「大鑑巨砲作家」横山信義の架空戦記。新刊で買うのはもったいない(ゴメンね)ので、Book-offの100円コーナーで見かけるたびに買って6冊を揃え、この夏休みにまとめて読んでみた。 始まりは1942年4月のドゥーリトル空襲。史実で…

DATA Science in WWⅡ

1994年発表の本書は、伝説のゲームデザイナー、ジェームズ・F・ダニガンが、アルバート・A・ノーフィーと一緒に書いた「WWⅡ雑記帳」。戦史として遺されなかった細かなことや、都合の悪いこと、統計が示す厳然たる事実などを紹介している。ゲームデザインのために…

ゾルゲらを捕まえた特務機関

プーチン大統領が子供の頃からKGB入りを希望したのは、第二次世界大戦におけるゾルゲらの活躍を知ったからだという。「1人のスパイが数個師団に値する」これが少年プーチンの心に火をつけた言葉だった。 2003年発表の本書は、日本には幻の特務機関があって…

あったはずの殺人事件

1966年発表の本書は、女王アガサ・クリスティの「ポワロもの」。しばらく前から作者の分身とも思える女流ミステリ作家オリヴァ夫人が、ポワロの相棒のような活躍を見せる。本書ではそれが顕著、ポワロを事件に誘い込むだけではなく、関係者を尾行して郊外ま…

ピンチこそ構造改革のチャンス

本書は、2015年に単行本で出版されたものを、2021年に加筆されて新書版で再版されたもの。8,000億円近い赤字を出して「会社が無くなるかもしれない」との危機から、構造改革でV字回復を成し遂げたマネジメントのお話である。 といっても、本書は僕にとって…

日本型閉鎖組織の改善策

2022年発表の本書は、同志社大学政策学部太田肇教授(経済学)の日本型組織研究。筆者には、同調圧力や承認欲求に関する著書がある。本書の目的は「消極的利己主義」が日本に蔓延している現象と理由、さらに解決策を示すこと。日本型組織は、 ・行政機関や企…

「本歌取り4部作」のはずだったが

本書は1987年に作者の経営していた小さな出版社から発刊されていた「横溝正史殺人事件」を改題して、1990年に東京創元社が出版したもの。翻訳ミステリーがほとんどの創元社が、和製ミステリーを文庫化するのは珍しいこと。作者は山梨で出版社を営んでいたが…

金田一耕助の復活

戦前から「人形佐七シリーズ」などで有名だった横溝正史、戦後に敵性文学として禁止されていたミステリーが解禁されて、金田一耕助という名探偵を世に送り一世を風靡した。不可能興味や怪奇的な雰囲気でジョン・ディクスン・カーに似ていると言われるが、こ…

第二帝国崩壊の真実

第二次欧州大戦の経緯は、多くの書籍・ゲームで知っているのだが、第一次の方はというと、日本軍が大きな役割をしなかったせいか知識が薄い。 枢軸国:ドイツ、オーストリア=ハンガリー、トルコ他 連合国:フランス、ロシア、イギリス、イタリア、アメリカ…

シャリーアのみによる統治

2022年発表の本書は、米軍撤退後のアフガニスタンにおけるタリバン政権の状況と未来を考察したもの。同志社大学内藤正典教授(国際関係学)が、国連事務総長特別代行としてアフガニスタン支援ミッションを指揮してきた山本忠通氏にインタビューしてまとめて…

ジャズとお祭りの町

このDVDは、NCISの2つ目のスピンアウト「NCISニューオリンズ」のシーズン1。以前紹介した本家のシーズン11に、ニューオリンズを舞台にした2話が含まれていた。この支局のボスは、スコット・バクラ演じる”King”ことプライド捜査官、警官上がりのラサール捜…

先進的な54社のDX事例集

DXという言葉は浸透したのか、バズワード化したのか、聞かれるようにはなったが、誤解も多いようだ。本書は公益社団法人企業情報化協会(通称IT協会)が今年6月に出版した、DXの事例や意識調査結果集。「DX成功ガイド」と表紙にあるように、 ・これからDXを…

自国通貨建ての国債デフォルト

昨日「強権の経済政策」でジャーナリスト軽部氏の「アベノミクス評価」を紹介したが、では日本経済をどうすべきなのかを改めて見直すために、本書(2022年発表)を買って来た。著者の田村秀男氏は元日経の記者、現在が産経新聞で論説委員などをしている。長…

やはり要諦は人事

2020年発表の本書は、ジャーナリスト軽部謙介氏の「アベノミクス」評価。先に「官僚たちのアベノミクス」(2018年)という著書があるようだが、入手できていない。2012年末の総選挙で政権に返り咲いた自民党は、以降10余年にわたって政権を維持しているが、…

テロリストを狙う10人の精鋭たち

2014年発表の本書は、ベテランミステリー作家ドン・ウィンズロウが本格的な軍事スリラーに挑戦した作品。作者は入院中に構想して産み出した探偵ニール・ケアリーものでデビューし、注目を集めた。多くの作品が邦訳されているのだが、実は読んだのは初めて。3…