1993年発表の本書は、歴史・軍事もの作家柘植久慶のフィールドワークもの。グリーンベレーの一員として各地の戦闘に加わったという作者は、退役後も世界を巡って数々の取材をした。その際に、本書のテーマでもある麻薬問題の現場を見ることになる。世界全体では、食糧の消費市場価値と麻薬のそれは同等以上との説もある、一大ビジネスである。主力製品である、
・ヘロイン ケシの実から採取したもの、ユーラシア大陸中部が中心
・コカイン コカの葉から採取したもの、南米が原産
は、いずれも標高1,000m以上の山岳地での産品。貧しい地域が多いことから、現地では貴重な収入源になる。いくら禁止されようが、生きるためには作るしかないのが実態。これを犯罪組織などが、原料の集積・麻薬への精製・消費地への流通を行うことで、仕入れ価格の10~100倍に価格がハネ上がる。
もちろんこれらの行為は違法だが、公然と行われている。例えば北朝鮮外交官が、外交行李に詰めて運ぶ外貨稼ぎは公知だが手が出せない。東欧諸国などでは税関等での賄賂が常態化し、流通は事実上フリー。西欧の都市には、南(マルセイユ、地中海経由)や東(ベルリン、ブダペスト、ウイーン、シベリア鉄道経由)で入って来る。
かつてのヴェトナム戦争で米軍を、アフガニスタン戦争でソ連軍を骨抜きにしたヘロインは、雲南省や黄金の三角地帯で製造され戦地に運ばれていた。20世紀末でも香港やホーチミン、バンコクなどは集積地となっている。当時ある中国の高官は「アヘン戦争の意趣返しを先進国にしている」と言っていたとある。
都市に流れ込む貧しい移民(難民)と、麻薬の関係は深い。自らが消費するだけでなく、スラム圏を麻薬無法地帯にするからだ。もちろん故郷の人脈が受け入れに寄与することは言うまでもない。
30年前の著ですが、都市の移民街の問題は当時からあったようです。また雲南省・黄金の三角地帯での製造は続いているでしょうから、その消費地はどうなっているか不安ですね。