新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

黒魔術・交霊術が呼ぶ悲劇

 「16歳の誕生日を間近に控えた冬、バップは悪魔に魂を売った」という衝撃的な一文で始まるのが本書。サイコ・サスペンスの女王ルース・レンデルが、オカルトが趣味の頂点を目指した作品である。

 

 舞台はロンドンの下町、小柄で風采が挙がらない父親ハロルド、病気がちな妻のエディス、姉娘ドリーは右ほおに醜いあざがあり、弟息子バップは内気な少年という4人家族が暮らしていた。父親の商店は繁盛していたが、裕福と言うほどでもない。エディスが病気で亡くなり、人前にあまり出ないドリーは主婦の役割をするようになる。

 

 バップはオカルト趣味で、黒魔術に傾倒していく。物語の前半は、20歳前後の姉弟が交霊術などに出掛けていくなどオカルト系のエピソードが多い。一家の環境が激変したのは、ハロルドの再婚。隣の家に住む40歳近い女性との結婚が決まったのだ。姉弟は新しい「母親」になじめず、交霊術の会でエディスの霊と会話するようになる。

 

 一方、アイルランド生まれのディアミットは、爆弾テロで兄弟を失い自らも精神を病む。ロンドンに住む姉を頼って上京するが相手にされず、肉斬り包丁やナイフで人を襲う妄想に捕らわれる。そしてついに通りがかりの女性の首を切断してしまう。

 

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 継母と姉弟の確執が深まったハロルド家では、姉弟が黒魔術で継母を呪うのだが、なんと継母が事故で死んでしまう。ドリーはこれをバップの能力だと信じる。再び主婦の座を取り戻したドリーだったが、徐々にエディスや継母の霊を感じるようになる。

 

 表題「The Killing Doll」は、ドリーが継母に似せて作った人形のこと。これに針を刺すなどして呪うわけだ。一方のディアミットの動きも、空恐ろしい。殺人鬼と臆病な男の2重人格なのだが、お互いを別の人物だと思い込んでいる。

 

 悪魔に魂を売った弟と、その能力を最大限利用しようとする姉。そして2重人格の男がからんで、オカルティックな物語が展開される。同じ地区に住んでいるだけで、接点のないドリーたちとディアマットが接近して最後の悲劇につながっていく。

 

 抑えた筆致がよりサスペンスを掻き立てるタイプのサイコ・スリラーですね。僕自身の好みではありませんが、評価する人も少なくないと思います。・・・でも僕には難しかったですね。