米中対立からかなりキナ臭い国際情勢になってきたので、先人の知恵に学ぼうと関連の書を時々読んでいる。「先人」ではあるが、同世代の論客として僕が一番頼りにしているのがこの人、東大の法学政治学研究科藤原帰一教授である。本書は2012年ごろに「kotoba」に連載された論説をもとにしているが、ちょうどその頃ある業界団体の研究会に藤原先生が講師でみえて、ご挨拶したことがある。
尖閣諸島の周りに中国海警局の船が出没したことに対し、「同様に南シナ海などで中国の圧力を受けているベトナムやフィリピンを協調してあたれ」と仰っていたことを覚えている。本書は国際政治学の入門編として、8つの章から成り立っている。いずれのテーマも大学院のゼミで学生たちと重ねた議論の結晶であり、素人にも分かりやすく書かれている。各章には、
問 A国がB国に軍事侵攻した。B国はどうすべきか?
などという設問が用意されている。設問の答えは一つとは限らない。この設問については「B国は反撃するべし」とあって、さすがに「沖縄下さいと言われたら、あげます」という答えではない。
もちろん設問はページを経るごとに、徐々に複雑になっていく。AB両国に国境を接するC国はどうするか、国連などの国際機関は何をもって仲介するか、A国とB国の国家体制(軍事国家か民主国家か)はどう影響するか等々・・・。
著者はほとんどは仮名を使いながら、覇権国に挑戦する新興国があったときどちらが戦端を開きやすいか、ナショナリズムは危険思想と言えるか、核兵器開発をする国への対処はどうあるべきかなどを説いてゆく。実は新興国は黙々と軍備を拡張し、覇権国そしのぐまでは忍耐する。一方覇権国は追いつかれては遅い、差があるうちに叩き潰す可能性が高い。これは今の米中関係を考えれば、分かりやすい。
最後に「平和の条件」という章があって、戦争を防ぐにはどうすればいいかが書いてある。極めて簡単に言えば、戦争が得にならない環境を維持することとあって、例えば経済的に相互依存性が高ければどちらの国にとっても戦争はうまくない。もちろんこれは、経済で密接になれば軍備が不要と言っているわけではない。
ちなみに「国境を越えた国際社会」は脆弱だと著者はいう。しかし本書発表から10年近くたち「サイバー空間という国際社会の可能性は大きくなった」と僕は思う。今度藤原教授にお会い出来たら、その点を伺いたいものです。