新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

リアルで緻密なノワール

 1987年発表の本書は、アンドリュー・ヴァクスの「私立探偵バークもの」の第二作。デビュー作「フラッド」は入手できていない。バークは、前科27犯で免許もない私立探偵である。ハードボイルドというには闇の世界に近すぎるが、犯罪小説というには矜持がありすぎる、複雑なミステリーだ。

 

 舞台はニューヨーク、ファーストネームが一杯あるバークは、安ホテル住まい。暗黒街とのつながりも強く、今回はマフィアのボスであるジュリオからの依頼で動き始める。ジュリオの知り合いの娘ジーナは燃えるような赤毛の美女、娘ミアを狙う変態男に困っていた。

 

 バークはこの問題を難なく解決するのだが、今度はジーナがミアの友達の男の子スコットが巻き込まれた児童ポルノ被害をなんとかしてくれと言ってくる。小児性愛者向けに映像や写真を売るため、幼児から児童を性的に虐待する組織が暗躍しているらしい。

 

        

 

 スコットのポルノシーンは、彼の幼い心に暗雲を掛けている。それを晴らすという表向きの理由はあるが、赤毛のストレーガ(スペイン語の魔女)ジーナの目的はそれだけではなさそうだ。それでもバークは仲間と一緒にスコットの問題の写真を探し始める。その仲間とは、

 

・聾啞のモンゴル人マックス、音もなく人を殺せる筋肉マン

ユダヤ人の技術者モグラ、メカ・エレキの仕掛けが得意

・浮浪者だが予言能力のあるプロフ、バークのムショ仲間

・サイコセラピストのイマキュラータ、ヴェトナム娘

・オカマの娼婦ミシェル

・中華料理店の女主人ママ・ウォン

 

 といった顔ぶれ。本題のジーナの依頼まで200ページを費やし、その後も挿入されるバークの暗黒街での体験がリアルだ。「ムショでよく見るタイプ」というチンピラも多数登場、刑務所の中での縄張り争いや裏道での悪党同士のやりとりなどは真に迫っている。そんなワルたちも「小児性愛事件」には本当に怒ります。片目に眼帯の写真が怖そうな作者、筆力はなかなかのものと思いました。