新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

暗黒社会の純愛物語

 1993年発表の本書は、昨日「赤毛のストレーガ」を紹介したアンドリュー・ヴァクスの「バークもの」とは別のシリーズの第一作。「バークもの」は合計6作を数えたが、解説によると「赤毛・・・」以降、ヒステリックになっていく幼児虐待などが目立ち、本来シリーズ化すべきものではなかったとのこと。

 

 作者もそれを意識したのだろう、新シリーズの主人公は<殺し屋ゴースト>。本名も分からず、ねぐらも仲間も持たない。武器を使わず、重いグラスを握りつぶすことのできる<凶手>でターゲットを殺す。

 

 ふと知り合ったストリッパー、シエラと行動を共にするようになり美人局で生計を立てていた。ある日凶悪な男にシエラがSM的暴行を受け、ゴーストはその男を殺した。シエラは逃がしたものの、ゴーストは警官に捕まってしまう。

 

        

 

 「女の悲鳴を聞いて助けに入った。殺した相手とも女とも面識がない」とだけ言い、あとは黙秘し続けた彼は、3年間ムショに送られる。その間シエラとは(お互いに)連絡せず、彼はムショで静かに出所を待った。静かに・・・というが、ムショの中の凄絶さは「赤毛の・・・」同様リアルに描写される。

 

 娑婆に戻った彼はシエラを探すため、暗黒社会に踏み入っていく。賭場の胴元にシェア探しを依頼し、代わりに殺しを引き受ける。殺しは成功したものの、胴元はシエラを見つけられず、逆にゴーストを殺そうとする。さらに危険な世界に入ったゴーストへの依頼は、過激白人至上主義者集団の総統を殺すこと。信用されるためには、至上主義者の前で<黒んぼ>を殺さなくてはいけない・・・。

 

 残り20ページでようやく出会えたシエラは、死の床にあった。彼女は、

 

「来ると思っていた」

「あなたが捕まって以降、セックスはしていない」

 

 と力なく言う。最後は泣かせてくれる純愛物語になりました。「卑しい街の孤高の騎士など絵空事」と思わせるリアルなハードボイルドなのかもしれません。