新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

壊れてしまった世界秩序

 2022年発表の本書は、ロシアの侵攻後半年の時点での「変わってしまった世界秩序」について5人の有識者とジャーナリスト峯村健司氏が対談した記事を書籍化したもの。注目されないロシア研究を黙々と続け、一躍時の人となった小泉悠専任講師は100ページも思いのたけを語っている。他の対談者は、

 

・鈴木一人東大教授(国際政治・科学技術と安全保障)

・村野将ハドソン研究所研究員(日米安全保障政策)

・小野田治元空将、ハーバード大学フェロー

細谷雄一慶応大学教授(イギリス外交史、国際政治)

 

 一致しているのは、ロシアのウクライナ侵攻によって、世界秩序は壊れてしまったということ。ウクライナ軍の抵抗と、ロシア軍の準備不足から膠着状態になってはいるが、かりにプーチン体制が崩壊してもロシアは軍事行動は止めない。安保理常任理事国が起こした紛争なので、国連は機能しない。

 

        

 

 ドローンなど新しい戦術と、100年前からの塹壕戦が入り混じった戦闘の推移を、台湾侵攻を考える中国は目を皿のようにして見ている。クリミア侵攻後もロシアとはそれなりの関係にあったG7各国中、英国だけは<クリミア戦争>以来の対露外交を貫いた。2大消費国中印との貿易があるので、対露制裁は十分効果を発揮しない。

 

 米国にとっての問題は、ウクライナより台湾海峡人民解放軍創立100周年の2027年が一番危ない。海峡を渡る軍用輸送船が少ないからといっても、民間フェリーなど徴用すれば侵攻可能だし、台湾封鎖ならより容易にできる。

 

 個別自衛能力・集団安全保障能力・(国連による)集団的安全保障のうち、最後のものはあてにならず、日本は前二者を強化しなくてはいけないとある。ミサイル防衛から反撃能力まで、日本の安全保障の多くの課題が述べられていたが、サイバー空間の記述はなし。

 

 壊れてしまった国際秩序の中で、日本がどうすべきか(市民の理解をどう得るか)が最大の課題のようです。