新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

2024-07-01から1ヶ月間の記事一覧

マック・ボランの長い闘い

ジェラール・ド・ヴィリエの「プリンスマルコ」シリーズも延々続くのだが、ドン・ペンドルトンの「マック・ボランもの」も凄い。全344巻もあって、どこからかは作者ではなく多くの作家の競作になっていったらしい。創元社が翻訳権独占で邦訳を出していたのだ…

ハンチントン理論から四半世紀が経ち

戦略学の権威で国際政治学者のサミュエル・ハンチントン博士が、「文明の衝突」を著したのが1996年。「21世紀日本の選択」は1998年の発表だった。本書は2000年に邦訳出版され、新刊書で買った記憶がある。それを再び読む気になったのは、おおむね四半世紀が…

魔王は不意にやって来る

1993年発表の本書は、昨年「女検死官ジェシカ・コラン」を紹介したロバート・ウォーカーの第二作。被害者の生き血を絞りながらじわじわ殺し、血を飲むことに無上の喜びを感じる現代の吸血鬼と闘い、重傷を負ったジェシカは今度はニューヨーク(NY)で「食屍…

パンデミックがもたらしたもの

2022年発表の本書は、マクロ経済学が専門の東大経済学部渡辺務教授の国際経済論。今も世界経済はインフレにあえいでいて、欧米各国は政策金利を5%ほどにまで上げ引き締めを図っているが、容易にインフレ退治は出来そうもない。 石油や穀物といったコモディ…

ペントハウスに幽閉された修道女

1985年発表の本書は、先月「逃げ出した秘宝」を紹介したドナルド・E・ウェストレイクの「ドートマンダーもの」。作者は2~3年おきにこのシリーズを書いていて、本書は「逃げ出した・・・」の続編にあたる。泥棒の天才と自称して実際素晴らしい冴えを見せるドー…

今の激動も、歴史のたった一コマ

今日が1世紀ぶりのパリ五輪の開会式。マクロン大統領の賭け(総選挙)は裏目に出て、フランスの政治は混迷を極めている。それでも本書(1996年発表)を読めば、パリはずっと騒乱の中に会ったことがわかる。今回の激動も、歴史にとってはただの一コマだと・・・…

アルゼンチン本土での工作

1986年発表の本書は、英国作家アレグザンダー・フラートンのフォークランド紛争もの。作者は第二次世界大戦で潜水艦勤務と情報部勤務(ロシア語を買われてソ連班だった)をし、戦後も潜水艦に乗り組んだ後1953年から作家に転じている。重厚な作風で<海の異…

コンパクト五輪という嘘と国家の負担

今週、パリ五輪が幕を開ける。前回の夏の東京大会が1年遅れだったこともあって「もう来たのか」との印象がある。その東京五輪だが、途方もない金満集団IOCによって「アスリートそっちのけの商業イベント」になってしまったとする書(*1)も紹介している。 2…

サンタ・テレサ、1943の事件

本書は以前「幽霊の2/3」「家蠅とカナリア」などを紹介した、ヘレン・マクロイの心理探偵ベイジル・ウィリングものの1冊。時代が第二次欧州大戦真っ盛りの1943年ということで、本格ミステリーながらスパイスリラーといってもいい筋立てになっている。 舞台…

普通の国家への道

本書は、安倍元総理暗殺事件の直前に4人の識者(*1)が集まって、官邸主導の道筋・残る課題などを議論したもの。対談は2022年7月に行われ、翌年出版されている。民主党政権での3・11危機管理から、第二次安倍政権の安全保障政策推進、官邸強化の経緯や内在…

サウジの戦略家とISの戦術家(後編)

在シチリア島の海軍士官たちが殺され、米国内でも将軍級の暗殺が起きる。「死のカルト集団」と化したアル=マタリの兵士たちは、もちろん殉教を怖れない。逮捕されそうになると、アル=マタリは遠隔で自爆ベストを爆発させるので、警官にも死傷者が続出する。…

サウジの戦略家とISの戦術家(前編)

2016年発表の本書は、マーク・グリーニーがトム・クランシーから引き継いでいる「ジャック・ライアンもの」。グリーニーも本書でこのシリーズから手を引くことになり、共著としての最終作になる。前作「欧州開戦」で、バルト海を巡るロシアの挑戦を退けたラ…

Accountability、もう一つの意味

自民党の裏金問題は、政治資金規正法の微修正で決着がつきそうになり、有権者の不満が高まっている。このところの選挙は負け続け、都議選補選も惨敗と評されている。裏金に絡んで昔読んだ本があったなと、探して見つけたのが本書。「小さな政府」に向けた改…

岩の裂け目での死闘

1984年発表の本書は、昨日「襲撃指令」を紹介した英国のスリラー作家ジェラルド・シーモアが、ソ連侵攻時のアフガニスタンでのSAS士官の活躍を描いたもの。この地はアレクサンダー大王やジンギスカンら世界史の英雄たちが支配を試み、その多くが長続きしなか…

原爆の父を狙うアラブ青年

1976年発表の本書は、英国の国際サスペンス作家ジェラルド・シーモアの第二作。1975年のデビュー作「暗殺者のゲーム」が好評を博し、「ル・カレ以来の衝撃的なデビュー」と讃えられている。作者はもともとジャーナリスト、TVのレポーターからテロ・破壊活動…

クーデター鎮圧は100時間以内に

2014年発表の本書は、元国務省アフリカ局次官補代理トッド・モスのデビュー作。作者はタフツ大・ロンドン大で博士までの学位を取り、世界銀行にも勤務したエリート学者。ジョージタウン大学客員教授、シンクタンクCEOの傍ら、執筆活動をしているというから驚…

純粋令の縛り(大麦・ホップ・酵母・水)

本書はフリーライター渡辺純氏が、世界を巡り歩きビールを呑みまくってまとめた書。著者は「B級グルメ」のレポーターで、<週刊文春>などにビールの記事を書き続けている人。 あとがきに日本のビールについての苦言が並んでいる。何が「生」なのか分からな…

「スパイ小説の詩人」中期の作品

レン・デイトンは英国のスパイスリラー作家。作者は「スパイ小説の詩人」とあだ名されていて、後期(1980年代)のSISサムスンもの三部作(全て紹介済み)が有名だ。邦訳は光文社から出版されている。しかしそれ以前にもいくつもの作品を発表していたが、それ…

EQMM誌コンテストの常連

本書は、以前「闇に踊れ!」を紹介したスタンリイ・エリンの代表的な短篇集。1946年執筆の傍らEQMM誌の編集に追われていたエラリー・クイーンは、新人作家の短編「特別料理」に舌鼓を打った。編集者としては、大家の書き下ろしも重要だが、新人作家のデビュ…

日本は「サイバー軍」を作れ

2022年発表の本書は、以前「サイバー戦争の今」などを紹介した、国際ジャーナリスト山田敏弘氏の国際関係論。2010年以降の、米中露のサイバー戦を概説して、日本は「サイバー軍」を創設すべきだとある。この主張は妥当だし、紹介されていることの多くは他の…

ノタ(札付き)の子孫たちの町

1998年発表の本書は、スー・グラフトンの<キンジー・ミルホーンもの>の第14作。前作で怪我を負ったディーツを看病していたキンジーは、サンタ・テレサに帰る途中で、ディーツから紹介された仕事をすることにした。塩湖沿いの町ノタ・レークは、人口2,300人…

さよなら、スペンサー一家

2011年発表の本書は、全39冊を数えるロバート・B・パーカーの「スペンサーもの」の最終作品。1973年「ゴッドウルフの行方」で始まった、ボストンのタフガイ私立探偵スペンサーとその仲間たちのシリーズは、作者の急逝という形で幕を下ろした。 スペンサー一家…

”Five Eyes”会合を狙うバイオテロ

2019年発表の本書は、戦闘級のチャンピオンであるマーク・グリーニーの「暗殺者シリーズ」。前々作に登場した<ロシアのグレイウーマン>ゾーヤ・ザハロフと、コート・ジェントリーの共同作戦が見ものだ。 CIAの中にモグラがいるようで、作戦が漏れて妨害や…

ビッグテックは規制できるか?

2023年発表の本書は、読売新聞記者小林泰明氏の「GAFAM対政府録」。米国では<ビッグテック>と呼称されるこれらのグローバル(&インターネット)企業たちは、世界中で各国政府とコンフリクトを起こしている。筆者は日本と米国で、7年間にわたって政府と彼…

FBIの女捜査官グレゴリオ

このDVDは「NCISニューオリンズ」のシーズン3。前シーズンの最後に国防省の高官までからんだ大規模なテロを未然に防いだのは良かったのだが、防ぐにあたって例によって破天荒(非合法ともいう)な手段を使ったドゥエイン捜査官のチームへの風当たりが強い。…

三成最大の敗北「忍城水攻め」

2007年発表の本書は、歴史(戦国)作家和田竜のデビュー作。実は2003年に脚本として完成していたものを、小説に改めたものである。スペクタクルシーンはあるものの、映像化がしやすかったのだろう、2011年に映画化されている(主演野村萬斎)。 戦国末期、太…

海賊の宝物を探す夏休み

1989年発表の本書は、昨年「富豪の災難」を紹介したシャーロット・マクラウドの「セーラ&マックスもの」の第9作。とはいえ、セーラたちはほとんど登場せず、あまたあるケリング一族の中でも元気な60歳代のエマおばさんが大活躍する。 消防訓練で3階から飛…

ケネディ兄弟末弟の危機

1977年発表の本書は、以前デビュー作「百万ドルを取り返せ」を紹介した、ジェフリー・アーチャーの第二作。ややコミカル(&アイロニカル)だった前作にくらべ、「ジャッカルの日」なみのシリアスなスリラーである。 米国第40代大統領に、ケネディ兄弟の末弟…

19歳ジョーと僕の青春哀歌

1950年発表の本書は、以前「まっ白な嘘」や「シカゴ・ブルース」を紹介したフレドリック・ブラウンの代表作。「シカゴ・・・」に始まる青年エド・ハンターものでも見られたように、20歳前の若者が歪んだ社会でどう生きていくかを描く筆には愛と迫力が感じられる…

日本人、日系人が多く登場して

このDVDは、派手なアクションと美しい大自然映像が売り物の「Hawaii-5O」のシーズン4。前シーズンの最後に恋人アダムと中国に逃れたコノは、前半レギュラーを外れている。代わりを務めるのが、スティーヴの恋人海軍情報部のキャサリン・ロリンズ大尉。前シ…