新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

19歳ジョーと僕の青春哀歌

 1950年発表の本書は、以前「まっ白な嘘」や「シカゴ・ブルース」を紹介したフレドリック・ブラウンの代表作。「シカゴ・・・」に始まる青年エド・ハンターものでも見られたように、20歳前の若者が歪んだ社会でどう生きていくかを描く筆には愛と迫力が感じられる。本書の特徴もそこにあって、僕自身が高校生の時に読んで大きな共感を得た作品でもある。

 

 19歳のジョーは、素直な青年。両親を亡くし高校も辞め、いまはミルウォーキーの顔役ミッチの下で違法富くじ賭博の手伝いをして暮らしている。彼は6歳の時に強盗に入ろうとした父親のところに警官を誘導し、父親を殺してしまったとのトラウマを持っている。加えてマザーグースの童謡にある、

 

        

 

 「ろうそくがベッドを照らし、手斧が首を斬りに来る」

 

 というフレーズに怯えるようになってしまった。安アパートで財布の小銭を数えながら暮らすジョーにとっては、ミッチが毎週くれる20ドルだけが頼りだ。富くじの摘発が厳しくなり、ミッチは大きな賭博場を作ると言ってジョーを抱き込む。しかしミッチの財布は破綻寸前だった。徐々に悪事に巻き込まれていくジョーは、同い年の可憐な少女エリーと、ミッチの情婦で妖艶な美女フランシーヌと知り合う。

 

 酒はもちろん、ポーカーを覚え、拳銃の使い方を教えてもらい、ナイフも使えるようになると同時に、2人の女の間で男に成長していく。拳銃マニアでジョーの教師でもあるディクシーのヲタク振りがすごい。幾多の拳銃を磨き、マグナム銃を<マギー>と呼んで愛でている。

 

 貧しい社会の仕組み、犯罪集団の実態、若者が犯罪者になる過程、女という生き物の影響力、凶器の美しさなど、いろいろなことを教えてくれた作品でした。普通の小説の中に、ラジオ放送・映画脚本・演劇・新聞記事などの形態を混ぜた不思議な手法を用いて、青春哀歌を描いた傑作です。50年ぶりの再会、とても嬉しかったです。