新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

2024-05-01から1ヶ月間の記事一覧

「装甲部隊の父」の虚実

2020年発表の本書は、以前「砂漠の狐ロンメル将軍」を紹介した日本の戦史家大木毅氏の第二弾。「ドイツ装甲部隊の父」と呼ばれ「電撃戦」を考案して実践した戦車将軍と言われるのが、ハインツ・グデーリアン上級大将。 プロイセンの大地主の家に産まれ、陸軍…

処刑12日前の特命捜査

歴史ミステリが得意な英国作家ピーター・ラヴゼイには、30冊ほどの著作がある。いくつかのシリーズがあるが、デビュー作「死の競歩」以来8作の「クリッブ部長刑事もの」が初期のもの。1978年発表の本書は、その最終作品である。 舞台は、1888年ヴィクトリア…

現実主義的政権運営の評価は

本書は2022年1月から2023年6月までの間、朝日新聞(&デジタル)に掲載された岸田政権関連の記事を加筆修正して集大成したもの。衆院補選で3連敗しても怯む様子を見せない岸田総理について、 ・聞くことは聞くが、進言を受け入れることはない ・現実主義…

三大倒叙推理の傑作

1935年発表の本書は、ずっと探していた「倒叙推理3大傑作」のひとつである。作者のリチャード・ハルは以前「他言は無用」を紹介しているが、15作中邦訳は3作だけ。本書は「傑作」とされながら学生の頃には絶版になっていて、読めずにいたものだ。 ウェール…

2万人の顔が見える島

2013年発表の本書は、以前<シェットランド四重奏>を紹介した、アン・クリーヴスのペレス警部もの。前作「青雷の光る秋」で恋人フランを亡くし、その娘キャシーをひきとってシングルファーザー暮らしをするペレス警部。前作から3年を経ての発表だが作中は…

1939年5月13日、パリでの怪事件

1946年発表の本書は、本格マニアであるマルセル・F・ラントームが、書いた長編ミステリ3編のうちのひとつ。作者はこれらを、ドイツ軍の捕虜収容所で書いた。あまりに退屈な毎日だったからで、原稿は家族へ送るものに隠されて収容所から出た。彼はのちに脱走し…

Global & Digital時代の企業価値向上

本書は出版早々(2024年4月)のものを送っていただいた。出版元は<宣伝会議>だが、電通グループの専門PR会社<電通PRコンサルティング社>の手になるもの。副題に「新しい企業価値を創出する」とあるが、昨日紹介したようにプロパガンダが溢れる現代社会…

メディアが「分断」に加担する

2020年発表の本書は、同志社大学グローバル・スタディーズ研究科教授内藤正典氏(多文化共生・現代イスラム地域研究が専門)の「分断」研究。世界で各種の分断が発生し亀裂が増しているが、政治とメディアがあるべき対応をしなかったからだとの主張が垣間見…

自白剤を使わなくても

1941年発表の本書は、以前「幽霊の2/3」「家蝿とカナリア」などを紹介したヘレン・マクロイのベイジル・ウィリング博士もの。第二次世界大戦がはじまっていたがまだ平穏なニューヨークを舞台に、嫌われ者の富豪美女殺しにウィリング博士が挑む。 ロングアイ…

5月のコネチカットで死んだ娘

1954年発表の本書は、警察小説の雄ヒラリー・ウォー初期の作品。リアルな捜査劇を描くとともに、第二次世界大戦後米国の主要都市周辺に雨後の筍のように現れた「郊外住宅地(サバービア)」での市民の生活も紹介しているのが作者の特徴。都市への通勤圏にあ…

部屋が人を殺せるものかね?

1935年発表の本書は、不可能犯罪の巨匠カーター・ディクスンの<H・M卿もの>。作者は、歴史・剣劇が好きで、大陸(特にフランス)が大好き。初期の頃はパリの予審判事アンリ・バンコランを探偵役にしたシリーズを書いていたが、英国を舞台にした巨漢探偵2人…

派閥や分派を許さないゆえ

自民党が裏金問題を受けて派閥解消を掲げたが、そもそも規定に「派閥、分派を許さず」と明記している政党がある。それが、日本共産党。党としての行動を一致させるために有用な規定ともみられるが、逆に硬直した組織になって党首が長く居座ることになりかね…

ハーフの女弁護士朝吹里矢子

本書は、以前お多福の捜査主任検事霞夕子ものの中編集「夜更けの祝電」を紹介した夏樹静子の中編集。日米ハーフの女性弁護士朝吹里矢子を主人公にした、中編5編が収められている。作者は学生時代から、NHKの推理クイズ番組のシナリオを手掛けていた。結婚・…

トライポッド対巨砲戦艦

2011年発表の本書は、大艦巨砲主義架空戦記作家横山信義の(めずらしい)SF。この年に亡くなった小松左京の「見知らぬ明日」に感銘を受けた作者は、自分なりの「見知らぬ・・・」を書きたいと思い、本書から始まる短いシリーズを書いた。 ジュール・ヴェルヌの…

東洋のスターリングラード

第二次世界大戦での陸戦といえば、やはり独ソ戦。2つの陸棲国家が総力を挙げて闘い、今のベラルーシ・ウクライナ・バルト三国・ポーランドなどで多くの血が流れた。欧州戦線と違い、太平洋戦線では大規模な陸戦はほとんどない。島嶼を巡る争いが主体で、大…

分かりやすい憲法改正論

2020年発表の本書は、「永遠のゼロ」の作者百田尚樹氏の憲法論。以前「偽善者たちへ*1」を紹介していて、巷間言われるほど偏向した論客(要するに極右のこと)ではないと思った。憲法論としてはこれまで、 ・政治家(石原慎太郎) ・法学者(長谷部恭男、佐…

紅茶を飲む魔女の管理術

このDVDは、「NCISーLA:潜入捜査班」のシーズン4。前シーズンからよりエスピオナージ色が強くなり、終盤から登場する副局長グレンジャーと、管理部長ヘティの過去の連携と現在の対立が描かれる。このシーズンを通じて何度か登場するのが、冷戦時代ソ連が米…

「ガラスの天井」は破れたか?

2021年発表の本書は、英国在住のコラムニスト、ブレイディみかこ氏の「女性の政治指導者論」。2018~2020年にかけて<小説幻冬>の連載した記事を集めて、各国の女性政治家や運動家の姿を通した政治のありようを記したものだ。 英国で女性参政権が認められた…