新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

2024-06-01から1ヶ月間の記事一覧

地域の改革政党から中央へ

2021年発表の本書は、ノンフィクション作家塩田潮氏の、日本維新の会を中心に据えた、この10年余りの政党離合集散史。断片的にしか知らなかった、改革政党「維新」の紆余曲折と、現状課題の理由を知ることができる。 種々の問題はあれ、やはり政策を掲げて実…

愛憎をからめた女王の短篇集

本書は、女王アガサ・クリスティ初期の短編集。1924年からぽつりぽつり発表されてきたものを、1930年に編纂している。登場するのは、 ・70歳前で人生の観察者を自称する小柄な紳士サタスウェイト ・浅黒い長身の紳士以上の記述がないハーリー・クイン の2人…

ハイテク国家戦略の要、丁薛祥

2022年末発表の本書は、以前「ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略」を紹介した、中国問題グローバル研究所長遠藤誉氏による中国の新しい政治局常務委員7人(チャイナセブン)の紹介と、習近平後継者についての考察である。前振りとして、 ・習近平に…

英国人20名を殺害せよ

2009年発表の本書は、SAS出身の覆面作家クリス・ライアンの軍事スリラー。これまで「テロ資金根絶作戦」「暗殺工作員ウォッチマン」などを紹介している。作者自身湾岸戦争で狙撃手として活躍、ミリタリー・メダルを送られている。同じく覆面作家のアンディ・…

長岡~上野を巡るアリバイ崩し

本書は「本格の鬼」鮎川哲也が、1959~60年にかけて<小説宝石>に連載したもの。当時の国鉄の時刻表が3種類掲載されていて、当時の移動がどれほど大変だったかを痛感した。 1)117列車は上野発2230、東北本線経由だが福島で奥羽本線に入り青森着2104 2)…

国内ミッションが多くなって

このDVDは、これまで2~5シーズンまでを紹介してきた「Mission Impossible」のシーズン6。1972年に放映されたもので、それまでとはやや趣が異なってきた。シーズ2~3のころは、大半が海外ミッション。東欧が舞台(の設定)だったことが多い。だから指令…

新しい「総力戦」の実相

2023年発表の本書は、ウクライナ戦争を研究して新時代の戦争の在り方を論じた書。防衛研究所政策研究室長高橋杉雄氏が取りまとめを行い、3つの分野(抑止論・宇宙戦・サイバー戦)の専門家が各章を執筆している。国や勢力が他のものをどう対峙するかは、 1…

「お宝」を返却したい泥棒

1983年発表の本書は、以前「強盗プロフェッショナル」を紹介したドナルド・E・ウェストレイクの「ドートマンダーもの」。自称天才犯罪者であるドートマンダーは、仕事にあたりレギュラー、セミレギュラーの専門家(運転手、錠前師など)を集める。しかし小さな…

凶銃M-16が狙う生存者

1975年発表の本書は、多作家(600冊以上の作品がある)西村京太郎の、比較的初期の作品。以前「寝台特急殺人事件」で、十津川警部・亀井刑事の名コンビによるトラベルミステリー・シリーズの始まりと紹介したが、それ以前の本書でも両者は登場する。作者はこ…

公共放送の改革案

2023年発表の本書は、早稲田大学教授(公文書研究)有馬哲夫氏の「NHK論」。NHK受信料問題は、時折国会でも取り上げられ是非が問われる「広義の税金」。筆者は、各国の公共放送の実装やスタンスを論じながら、NHKのあるべき姿を提案する。1世紀前に「私設無…

寡黙な中年のゲイ調査員ディヴ

昨年ヒスパニック系のゲイ作家マイケル・ナーヴァの作品を2作紹介した。1978年発表の本書は、その先輩格にあたるゲイ探偵のハードボイルドもの。1960年代までは公民権問題と言えば黒人問題だったが、このころからゲイ(LGBTQ)問題になってきたという。 作…

現代「けまり」の手掛かり

1993年発表の本書は、多作家斎藤栄のノンシリーズ。横浜市役所勤務だった作者には、神奈川県を舞台にした作品が多い。本書もその1編だが、なぜかWikipediaに作品の紹介がない。まあ、このころ月間1冊ペースで長編を発表しているので、さしものWikipediaも…

難民保護のための国連活動

2019年発表の本書は、今話題のUNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)を経てUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)駐日代表である滝澤三郎氏の国連レポート。日本政府の法務省を辞め国連職員となった筆者は、グローバル化の先進組織である国連で生き延びてい…

素人探偵が官憲に認められるには

1999年発表の本書は、深谷忠記中期の作品。数学者黒江壮と編集者笹谷美緒が真犯人の(主にアリバイ)トリックを暴くシリーズである。警視庁の勝部長刑事らには捜査協力をした実績があり「名探偵」と認識されるコンビだが、地方警察にはなじみがなく一般人扱…

科学捜査に飽きたなら

本書は日本推理作家協会(理事長:東野圭吾)が、時代推理傑作選として編纂したアンソロジー。8編の江戸時代ものの短編が収められていて、原本はまちまちなのだが故人でもある作者の作品も含めて徳間文庫オリジナルとして2009年に出版されている。 「江戸時…

鎮魂歌か、パロディか?

ハードボイルドの探偵というのは、20歳代では厚みが出ない。できれば40歳代くらいで、世の中の酸いも甘いも経験したタフガイが望ましい。ロバート・B・パーカーのスペンサーなど、最初の頃は30歳代のチンピラ。40歳代の風情になって、なかなかの貫禄になった。…

日本人のヘイト意識ゆえの事件

2022年発表の本書は、いずれもジャーナリストである安田浩一&安田菜津紀氏の共著。外国人差別の現場を取材し、日本人のヘイト意識などを問題視したレポートである。やや情緒的に過ぎる部分もあるので、事実と主張点を中心にまとめてみた。 冒頭、名古屋入管…

外国人の在留は日本政府次第

今月改正入管法が施行されたが、移民・難民問題は日本でも大きな論点である。きょうから2日、入管法関連の書籍を紹介したい。2019年発表の本書は、法務省難民審査参与員でもある名古屋大学講師の浅川晃広氏の入管法解説。 冒頭「外国人は日本政府の許可に拠…

何故こう呼ばれる場所なのか

2002年発表の本書は、日本地名研究所評議員である谷川彰英氏の「京都地名辞典」。巻頭に紹介されている地名が一覧できる地図が付いていて、町歩きの大きな助けになる。寺院・神社・通り・川や橋・坂や道・エリアなどが60箇所、写真付きで各3~4ページで解…

アラサー牧師妻の冒険

1990年発表の本書は、アガサ賞最優秀処女長編賞を獲ったキャサリン・ホール・ペイジのデビュー作。作者はニューイングランドの田舎町エイルフォードに住む牧師の妻フェイス・フェアチャイルドを探偵役にしたミステリーを書き続けているが、その第一作にあた…

海軍に入ったラム君

1942年発表の本書は、A・A・フェアの「バーサ&ラム君もの」。前年末の真珠湾攻撃により、米国は戦争状態に入った。筆の早い作者は、さっそく時勢に合わせた作品を仕上げたという次第。パートナーのラム君を軍隊にとられては大変とバーサは四方にてを廻すのだ…

偉大な、神秘に触れる男

1994年発表の本書は、以前SFホラー「アイアム・レジェンド」と短篇集「運命のボタン」を紹介した、奇抜なストーリーテラーであるリチャード・マシスンの奇術ミステリー。回想シーン以外は、全て「偉大なるデラコート~神秘に触れる男」の異名をとった奇術師…

データリテラシーを磨く

2021年発表の本書は、ベンチャー投資家山本康正氏のデータ活用論。筆者はBTMU(現MUFG)からGoogleを経て、日本企業やベンチャーキャピタルへの助言も行っている。そんな彼の、①情報の集め方、②活かし方、③偽情報の見抜き方が記されている。実は③を期待して…

現代エスピオナージの古典

1963年発表の本書は、ようやく手に入ったジョン・ル・カレの名作。以前紹介した「高貴なる殺人」に次ぐ第三作で、作者の名前を不朽のものにした現代エスピオナージの古典的作品。米国探偵作家クラブ賞と英国推理作家協会賞をダブル受賞している。 オランダ語…

Checkmate King2、こちら White Rook

このDVDは、僕が子供の頃に見ていた米国ABC製作のTVドラマ「Combat!」。1962年から5シーズン放映されたもので、日本でも吹き替え版で全152話が放送されている。僕が見たのは、多分80話以降のもの。 D-Day以降の欧州西部戦線における米国歩兵分隊の活躍を描…

竹中先生が選ぶ日本史のリーダー達

昨日石平氏の「中国をつくった12人の悪党たち」を紹介したが、本書も同じ2019年発表の日本経済史。経済版「日本を創った12人」である。著者の竹中平蔵氏は、僕が師事する高名な経済学者。飛鳥時代からWWⅡ後まで、日本に経済改革をもたらした11名と3名の江戸…

四千年の歴史における極悪人たち

2019年発表の本書は、成都生まれで日本に帰化した評論家石平氏の、中国偉人伝。筆者は「なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか」で山本七平賞を受賞し、中国に対して辛口な評論で知られる。 堺屋先生には「日本を創った12人」(*1)という名著があるが、…

劇中のエラリーとニッキー(後編)

昨日紹介した「エラリー・クイーンの事件簿1」に続き、本書は「事件簿2」である。もうひとつの映画脚本と、2編のラジオ脚本が収録されている。 ◇完全犯罪 エラリーは友人ウォルター・マシューズから婚約者メーリアンの父レイモンド・ガーテンの苦境を救う…

劇中のエラリーとニッキー(前編)

巨匠エラリー・クイーンは、ハリウッドとも付き合いがあった。「ハートの4」や後の「第八の日」はハリウッド経験がその背景になっている。既刊の国名シリーズなど5編(*1)が映画化されたほか、3つの映画脚本を1940~41年に書き下ろしている。書き下ろし…

ラストベルトの自動車産業

1992年発表の本書は、サラ・パレツキーのヴィクことV・I・ウォーショースキーものの第7作。これまでの6冊を通して、質の高い女性ハードボイルドものだと感じている。ただ問題は、このところページ数が増していること。本書に至っては600ページ近くあって、列…