中国は「権謀術数」の国だという。まあ、日本を含めてどの国でもその要素や歴史はある。俗に「中国4000年」というが、古くから文明が栄え記録が残されていることで、権謀術数の歴史がいっぱい積み重なっている。陳舜臣には「中国の歴史」全7巻と「小説十八史略」全6巻という大作があって、権謀術数を満喫させてくれる。
伝説の王朝「夏」から19世紀の「清」にいたるまで、数限りない国が興隆し、皇帝、英雄、美姫、宰相が登場する。個々の時代や事情は違え、王朝の一生というのは似たようなものだ。前の王朝が乱れてきて、皇帝は酒浸り、美女(ひどい悪女のこともある)にうつつをぬかしている。遊興費が欲しいので増税するけど、行政官が途中でネコババしたり賄賂をとって見逃すので、税収はあまり増えない。
もちろん市民のための善政など望めないので市民の不満は高まり、逃散する人も出てくる。野盗・山賊が増えて、治安が悪化。それでも警察機構はまともに機能しない。軍そのものが野盗に変身することだってある。地方で反乱がいっぱい起きて、その中で一番強そうなの(運のいいの)が都に攻め上る。皇帝は逃げるか、殺されるかして王朝はおしまい。
しかし都を占領した反乱軍とその統領も、まともな統治機構や知識を持っているとは限らない。さらに天下は乱れて・・・そのうちに、そこそこまっとうな王が都を治めて新しい王朝を開くことになる。ちゃんと王朝⇒王朝の移行が行われないと、春秋・戦国という群雄割拠の状態になる。そこいらじゅうに「皇帝」がいて、縄張り争いを繰り返すわけだ。権謀術数は国と国の間でも、国の中でも横行し、暗殺・罠・裏切り・・・と醜い争いが続く。
なんとか統一王朝にたどりつくのは、運はもちろんだがある程度能力優れた「皇帝」だろう。それでも、2代目・3代目となると問題が吹き出してくる。大体、2代目を決めるにも皇帝の子供はいっぱいいるし、その母親もいっぱいいる。皇太子候補の母親(皇后とは限らない)が有力な氏族の出身だと、他の氏族の血をひく他の皇太子候補を暗殺したり讒言で放逐させたりする。
もちろん「他の氏族」だって同じことを考えているから、どちらが先制するかという程度の話。うまく皇太子になって皇帝を継ぐ過程では、対立候補(自分の兄弟)を皆殺しにするようなものも出てくる。のちのちのことも考えると、0歳の子供でも見逃せない。さて首尾よく皇帝を継いでも、母親とその背後の氏族には恩義があるので、これを重用せざるを得ない。いわゆる「外戚」が政治の実権を握るわけだ。