新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

才人の手裏剣60連発

 アイザック・アシモフは才人である。SF作家として知られており、「私はロボット」「銀河帝国の興亡(全3巻)」などの著作がある。そろそろ現実味を帯びてきたロボットと人間の共生時代を予測し、ロボット三原則を顕わしもした。そんなアシモフは、ミステリーも大好きなようだ。彼が20年近くも書き続けたシリーズがある。それが本書「黒後家蜘蛛の会」である。

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 ミラノ・レストランに月例で集まる6人の名士(特許弁護士・画家・数学者・推理作家・有機化学者・政府の暗号専門家)と、この人なくしては黒後家蜘蛛の会は成り立たない名給仕のヘンリー。彼らは持ち回りでゲストを呼び、不思議な体験や抱えている悩みなどを話させ、謎解きやアドバイスを行う。毎回6人の知識人が盛んに議論を戦わせた後、正解を探り当てるのはいつもヘンリーだったという(水戸黄門的な)ストーリーだ。約30ページの短編が1巻あたり12編収められていて、この5巻で合計60編となった。このうち多くはEQMM(エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン)に掲載されたものである。
 
 エラリー・クイーンを名乗る2人のうち、フレデリック・ダネイは編集者としても多くの業績を残した。この雑誌でデビューした作家は数知れない。アシモフも、ミステリーの分野についてはダネイの恩恵を受けた一人である。面白いのは、各作品の最後に付けられたアシモフ自身のコメント。登場人物についてモデルは誰それであるとか、これはアシモフ自身のこういう経験が基になっているとか、ダネイにタイトルを替えさせられたが短編集にした今回元に戻したとか、EQMMでは「没」にされたが短編集には入れた・・・グチや嫌味も含めてアシモフという作家の活動がうかがえて楽しい。
 
 この短編集を出した後、アシモフは1992年に亡くなり「黒後家」シリーズは打ち止めになった。中には英語特有の言い回しがわからないと理解できないものや、悪ふざけ・ダジャレに近いようなものもあり、全部が面白かったわけではないが、これ以上読めないと思うと残念ですね。