いわゆるGAFAのような企業が税金を十分に払っていないという指摘は昨年急に脚光を浴びてきて、フランスなどは(ルクセンブルグにEU本社のある某社に)独自の課税をすると息巻いている。EU内のサービス提供は、どこかの加盟国で税金を払えばいいはずなのに・・・である。これはルクセンブルグ等がEU内で、安い税率を定めれているからだ。
同じような話は昔からあって、本書にあるケイマン諸島のように税金がタダ同然の国にペーパーカンパニーを置いて「タックス・ヘイヴン(税の避難所)」としていた個人・法人は少なくない。本書は、証券会社の創業社長が租税回避地に持っていた約1,000万ドルの隠し金を、社長の急死で託されることになった財務部長深田の運命の変遷を描いたものである。
深田本人は実直なサラリーマン、社長を個人的に崇拝していて社長も(娘婿よりも)彼を信頼している。このカネは、社長がコツコツ貯めて海外に隠したものとバブル期に会社として買った美術品を海外で売却した代金が混じっている。深田は幼馴染で海外投資に詳しい坂東と、かれが紹介した外資系ディラー稗田に頼んで、この口座を処理しようとする。やり手女ディラー稗田は、社長個人資産と美術品売却代金を分割し、後者は日本に戻して申告し、前者を香港の隠し口座で運用することを提案する。
40歳過ぎで独身、見栄えもよろしくない深田が、実直なだけのサラリーマンから徐々に派手だがストレスの多い国際(闇)金融の世界にのめりこんでいくプロセスには迫力がある。一方証券会社の相続を調査した国税庁のバツイチ女調査官宮野有紀が、多くのゼニの亡者や国税をにくむ人々と知り合って成長していく物語も、1/3ほど含まれている。前半の二つのストーリーについては学ぶことが極めて多く、賞賛できる。(解説の竹中平蔵先生もほめている)
ただ終盤、深田と有紀が知り合って個人的に付き合い始めるころから、プロットがゆがんでくる。税査察に入ったところの財務部長と、いくら子供がなついているからと言って付き合ってしまう国税査察官というのはいただけない。ミステリー系の作家だったらもう少しスリリングな終盤を描いたのではないかと思う。
作者幸田真音は証券ディーラーなどを経て、1995年に「小説ヘッジファンド」でデビュー、「日本国債」で名を挙げた人だ。時々TVの「サンデーモーニング」に出演している。この作者の諸作、勉強のために読んでおくべきでしょうね。