新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

「所詮言葉の問題」ではない

 2016年発表の本書は、心理学者岡本真一郎教授(愛知学院大学心身科学部心理学科)のコミュニケーション論。インターネット上では、すでに国家間の謀略レベルの「偽ニュース」が充満しているが、悪口・嘘・ヘイト等の本質は変わらないと考えて買ってきた書である。

 

 冒頭、ディスコミュニケーションで窮地に陥った政治家、企業経営者、有名人などの事例があり、その原因として、

 

・うっかり発言

・偏見、差別意識

・意図的な口撃、悪口

 

 などが挙げられている。意識の差からこじれてくるセクハラやクレーマー問題、京都人特有の当てこすり、ヘイト・スピーチの実態などがレポートされている。例えばある人種や宗教などの集団に対しては<ステレオタイプ>が存在していて、人はそれに合致する噂は受け入れ拡散しやすいが、合致しないものは忘れるという。面白かったのは「上手な嘘のつき方」、ポイントは、

 

・自然な振る舞い

・よく準備されたストーリー(スパイもので言うカバー)

・オリジナリティがある

・記憶力が良く、素早く考え、雄弁

・罪悪感、怖れ、喜びを表さず、演技を上手くする

 

 ことだとある。

 

        

 

 「偽ニュース」の形成プロセスについても、こんな公式が紹介されていた。

 

Rumor(噂)=Importance(重要性) x Ambiguity(曖昧さ)

 

 これはサイバー空間での「偽ニュース」についても通用する話である。巻末にインターネットに関する記述もあり、

 

・ネット上では、新しい人格を形成できる。その際、危険な変身もあり得る

・誇張を含めてコピペや「いいね」で拡散され、一気に広まる

・新しいツールが続々登場、マナーを確立するいとまがない

 

 ゆえに、危険は増大するとある。

 

 そもそも、うっかり発言や当てこすりなどは「所詮言葉の問題」として軽く扱う風潮が日本にはあり、それが被害を多くしたと筆者は言う。そのリスク、間違いなく増大していますよね。「所詮ネット上の問題」では片付きませんから。