新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

交渉なくして和平なし・・・ならば

 2023年発表の本書は、アフガニスタンなどの戦争終結に関する試みを多く経験した上智大学(グローバル教育センター)東大作教授の手になる「ウクライナ戦争終結への道」。大国が小国を相手に勝てず、結局は退いた例(ベトナムアフガニスタン等)は多いが、いずれにせよ何らかの交渉で落としどころを定めないと、大国の撤退も難しかったと筆者は言う。

 

 そのロジックを今回のウクライナ戦争にあてはめて、終結への可能性を論じている。終わり方のパターンとして、

 

1)世界戦争への波及(場合によっては人類の終わり)

2)ロシア・ウクライナ双方の疲弊による「汚い妥協」

3)プーチン体制の終焉とロシア軍の撤退

 

 があり得るが、いずれも直ぐには起きそうもない。結局、

 

4)欧米対中露のデカップリングと新冷戦

 

 で長期戦になる公算が高いという。

 

        

 

 戦争終結のためには仲介者が必要だが、国連は機能せず、トルコ等では力不足。ロシアには中国が、ウクライナには米国がレバレッジを効かせて押しとどめるしかない。しかしそれ(休戦・停戦等)には4つの障害がある。

 

クリミア半島を含む領土問題、東南部4州や親ロシア派住民の多い地域の帰属も

・キーウ近郊ブチャ等での戦争犯罪、裁かねばならぬウクライナ、避けたいロシア

・安全保障の枠組み、ウクライナNATO入りはロシアはのめない

・戦後復興のための戦時賠償、ロシアとしては払うつもりは全くない

 

 ロシアに野望をあきらめさせる経済制裁も強化されているが、その効果は期待ほどではない。抜け穴はいくらでもあるし、ロシア人は粘り強い。現に北朝鮮が、あれほど長く制裁されながら核・ミサイル開発を着々と進めているではないか。

 

 紛争が世界中に飛び火しかねない状況で、日本はどうすべきかが最終章にある。答えは「グローバル・ファシリテータ:世界対話の促進者」たれというもの。うーん、正論ではありますが、決め手にもならないし、新たな紛争抑止も限定的。ちょっと消化不良の印象でした。