新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ナッシュヴィルのラティーナ女刑事

 作者のマルコス・M・ビジャトーロはサンフランシスコ生まれ、テネシー州や紛争が激しかったころのグアテマラニカラグアで過ごし、現在はアラバマ州中南米からの移民の相談を受けていると解説にある。2001年の本書がデビュー作、以後2年に一度のゆったりとしたペースで「チャコン刑事もの」を発表している。

 

 舞台はテネシー州ナッシュヴィル中南米からの移民・難民が激増している街で、白人・黒人に加えヒスパニックの居住区が広がりつつある。主人公のロミリア・チャコンは28歳のシングルマザー、両親がエルサルバドルからアトランタに移り住んだ移民2世で、父と姉を亡くして母親エヴァと3歳の息子セルヒオと暮らしている。

 

 アトランタにいたころから優秀な警官だったが、不祥事に巻き込まれたのとアトランタの治安が悪くなったことからナッシュビルに移ってきた。今回がナッシュビル署殺人課刑事としての初仕事になる。彼女は英語・スペイン語を完璧に話し、同時通訳もできる。ナッシュビル署は増え続けるスペイン語しか話せないラティーナからみの犯罪対策に、彼女を採用したわけだ。

 

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 カンヴァーランド川のほとりで、若いラティーナの新聞記者が死んでいた。当初は拳銃自殺と見られたのだが、ロミリアは何者かが射殺したとの証拠をつかみ、現場から模造翡翠を発見する。実は直前に医師と看護師が連続して殺される事件があり、2つの現場でも同じ模造翡翠が見つかっていたのだ。2つの事件の容疑者はすでに逮捕されているのだが、真犯人は別にいるのか、それとも模倣犯か?

 

 新聞記者はラティーナの子供たちに麻薬を与えている組織を内偵していたことがわかり、アトランタから来た大物の慈善事業家ムリージョに接触していたらしい。ムリージョもグアテマラの出身で、アトランタでもナッシュヴィルでも市長らと昵懇になって移民らのケアをしている。しかし裏の顔もあるのではと、ロミリアは睨む。

 

 ロミリアは典型的なラティーナ女性で、気丈だが短気で直情径行。前の職場でもそれがアダになった。ムリージョは彼を容疑者と見て迫る彼女を大きく包み込み「愛しているよ」とまで言う。出番は多くないのだが、ムリージョという大人の男の存在感が本書では際立つ。

 

 紛争地から逃れてきたラティーナ移民の生態や悩み、米国内での危機(麻薬・暴力等)を生々しく描いてくれるシリーズです。第二作以降も探してみましょう。