新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

もう1冊、企業変革へのガイド

 今月日本経済の行方について、2冊の対照的な書(*1)を紹介した。どうしても生産性向上は悪だとする森永教授の主張は受け入れがたく、もう1冊日本の成長戦略を語る本書(2022年発表)を読んでみた。著者松江英夫氏はデロイト・トーマツ執行役員、主張は「脱自前で内向きタコツボ社会を打ち破れ」である。

 

 日本経済が<失われた30年>に低迷しているのは、短期の施策に甘んじ本格的なイノベーションに挑戦しなかったからだとある。その根本原因は、現状の社内(事業・従業員・顧客)事情にしか目が届いていなかったから。ではどうすればいいかというと、経営者は、本業を再定義してすべてを自前でやることを改めるべき。

 

1)自社の業務を分解して、自前(コア)とそうでないところを分離

2)コア部分を中心に、デジタル手法でそのやり方をゼロベースで考えなおす

3)コアでない部分は、外部サービス等の活用を考える

 

        

 

 このやり方は老舗企業だけでなくスタートアップにも適用できるとして、グローバルな大企業から、特徴ある中堅企業、大学発ベンチャーなど多くの成功事例が紹介されている。このような変革をすると雇用が気になる人もいるのだが、雇用は流動化ではなく柔軟化できると筆者は言う。

 

1)ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用を組み合わせたハイブリッド雇用

2)年功序列マネジメントに加えた専門職評価で、キャリアを複線化

3)兼職や副業、外部活用など含めた人材活用のオープン化

 

 で従業員の自己実現と雇用の流動化ができるとある。グローバル市場に対応できるように事業の選択と集中を常に考え、巨大な市場の中で「最強のカタリスト(触媒)」となることを目標に、新たな内需を開拓していくのが日本企業の王道だと筆者は言う。

 

 儲けてかつ社会貢献もするSDGs企業から、企業活動そのものが社会貢献というESG企業に転換するという話は、ちょっとうますぎる(*2)ように思いますが、考え方は承っておきましょう。

 

*1:加谷珪一「スタグフレーション」、森永卓郎増税地獄」

*2:SDGs企業すら少ないのが現状