新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

「地獄篇」を目標にした殺人者

 2003年発表の本書は、昨日「褐色の街角」を紹介したマルコス・M・ビジャントーロの第二作。前作で麻薬組織のボスであるムリージョ(通称テクン・ウマン)の圧力を受けながらも<翡翠のピラミッド>事件を解決したシングルマザー刑事ロミリアは、首に受けた傷によって病院暮らし。

 

 思い出すのは、3つ年上の姉ケイティが殺された事件だ。7年前に、不倫相手と共に拘束され強姦された上で、鉄棒で串刺しにされるという猟奇事件だった。その犯人<ウィスパラー>は、米国中西部の街で時折猟奇事件を起こしている。ロミリアが警官になったのは、姉の仇を取りたかったから。

 

 <ウィスパラー>の手口は残虐さを増し、3人の金融トレーダーを(ケルベロスに見立てた)犬に喰い殺させるまでになった。事件の間隔も狭くなっている。退院したロミリアは自宅療養中にネットサーフィンを始め、<ウィスパラー>の犯行と思われる事件を調べ始める。そこに、前の事件で重傷を負いながらメキシコに逃れていたムリージョから、思わぬ手助けがある。

 

        

 

 移民・難民・麻薬・人種差別・経済格差の問題が渦巻く街で、ロミリアは姉の復讐のために単独捜査を始める。舞台はナッシュビルを離れアトランタニューオリンズ、果てはロサンゼルスまで広がる。ロミリアの独白と並行して、ムリージョの不気味な動きや<ウィスパラー>の過去や現在の犯行が描かれる。<ウィスパラー>の狂気は、ダンテの「神曲地獄篇」の世界を、今の米国上に再現しようとしているようだ。

 

 解剖学の資料も何度か出て来て、血なまぐさいシーンがかなりある。原題の「MINOS」とは、ギリシア神話クレタの王、冥界の審判官である。酒に溺れそうになったり、子供のことで悩む等身大の女性ロミリアの目を通して、現代社会の闇をあぶりだすような警察小説でした。2作読んで、なかなか面白いのですが、第三作はどうなっているのでしょうか?