新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

司法と医療の対立

 以前「ジェネラル・ルージュの凱旋」を紹介した海堂尊の、同じ「田口・白鳥もの」の比較的新しい作品が本書。「ジェネラル・・・」が救急救命医療の現実を告発するような医療ミステリーとしては「医療」に重心があるものだったが、本書は「ミステリー」の方に重心がある。

 

 その証拠として、「21世紀本格」の旗手である島田荘司が解説を書いているのだ。「コロンブスエッグ」こと縦型MRI(Magnetic Resonance Imaging)という今でも珍しいハイテク機器を登場させ、その特徴を最大限に活かした「不可能犯罪もの」に仕立てられている。

 

 MRIは強力な磁場を作って人体の輪切り画像を撮影し、デジタル処理をして医療に役立てるもの。しかしその磁場を作るために絶対零度に近い環境を作る必要があり、液体ヘリウムが漏れたり最悪爆発したりする危険性をはらむ装置だ。

 

 「ジェネラル・・・」でも繰り返し紹介されているように、日本で実質死因不明の遺体はものすごく多い。解剖医やその環境が不足していることも理由の一つ。それならば死体を輪切り画像(エーアイ)にして、死因究明などに使えないかというアイデアは当然ある。

 

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 技術的には可能なのだが、司法としては新技術を導入してもそれで公判維持ができるようになるには、多くの前例・判例が要るので慎重になる。医療としても、旧来型の技術しかもたない医院や医師から見れば、ある意味の脅威だ。そこでのコンフリクトを作者は東城大学病院のエーアイセンターを舞台に、司法と医療関係者の議論を描いて見せる。

 

 司法分野からは警察庁刑事局長だった人物、医療分野からはマサチューセッツ医科大の準ノーベル学者のような大物が送られてくる。そこで元刑事局長が縦型MRIの中に座った状態で射殺され、東城大病院の院長が容疑者として拘束されてしまう。センター長を押し付けられた田口医師と、厚労省の「火喰い鳥」白鳥は院長の無実を信じて72時間という期限の中で事件を解決しようとする。

 

 やや専門的すぎるものの、とても面白いミステリーであることは島田氏のいう通り。ただ、登場人物があまりにも戯画化して描かれているのが気になる。登場人物の会話が冗長で面白くないのも減点材料でした。ちょっと残念・・・。