新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

脇役としての狩矢警部

 中学生の頃にエラリー・クイーンに出会ってから、高校在学中に500冊程度は読破したと威張っている僕だが、実は山村美紗の作品を読んだことが無かった。TVの2時間ドラマの原作が多くあったことは知っているし、少しは見た記憶もあるのだが、小説としての作品は今回が初対面。

 
 この「赤い霊柩車」シリーズは、片平なぎさ主演で多く放映された。このほかキャサリンシリーズ(主演はかたせ梨乃)、他に浅野ゆう子主演のシリーズもあったような気がする。多くが京都を舞台としていて、主人公が官憲ではないケースでは、京都府警の狩矢警部という人物が出ていた。キャスティングは若林豪
 
 このシリーズは「葬儀屋探偵:石原明子」が主人公で、本書(1990年発表)には3つの中編が収められている。警察や検死医でなくても、死体とつきあうのが商売の葬儀屋を主人公に据えた着想は面白い。官憲探偵は履いて捨てるほどいるし、素人探偵は事件に遭遇する確率が低い。その中間あたりを狙った設定のようだ。現に表題作では、風邪で臥せっていた若妻が死んだとの連絡で葬儀の手続きに行った明子が、納棺の折に索溝らしきものを見つけて事件だと警察に伝えている。

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 明子はタクシー会社と葬儀社を営んでいた父の急死で稼業を継ぐことになった若い女性で、東京にいる恋人とは頻繁には会えない。この恋人、青年医師の黒沢が実は名探偵の役割をする。彼は明子から事情を聴くだけではなく、友人の新聞記者からも情報を得て、真犯人やトリックを暴くのだ。
 
 本来なら「青年医師探偵黒沢」シリーズとすべきなのだが、そこは華のある女探偵の方が受けるに決まっている。そして毎回重要なところで出てくるのが狩矢警部である。彼はこのシリーズ以外にも登場し、事実上のシリーズ名探偵。でも主役の女性たちに一歩譲っているところが魅力でもある。
 
 初めて読んでの感覚ですが、死者の関係者は少なくその中でアリバイ・密室などの簡単なトリックを見破って真犯人当てをするゲームブックのようなミステリーである。本格的な長編ではないので、即断はできないが肩の凝らないミステリーとしては面白いと思った。今度は長編を探してみましょう。