新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

救急救命医療の現実

 本書は、海堂尊の「田口・白鳥シリーズ」の第三作。「チーム・バチスタの栄光」「ナイチゲールの沈黙」に続くもので、竹内結子阿部寛主演で映画化されたシリーズでもある。舞台は東城大学医学部付属病院、第一作で心臓外科を、第二作で小児科を扱って、本書では救急救命センターが取り上げられる。

 

 作者は現役の医師で、国立研究開発法人の放射線科に勤務しているという。恐らくは激務だろうが、そのかたわら医学ミステリーなどを執筆し、「チーム・バチスタの栄光」では「このミステリーがすごい大賞」を受賞している。

 

 大学附属病院というある意味とじられた世界で、教授をピラミッドの頂点とする権威(というか見栄)の張り合いや、医師と事務長らとの確執、さらには厚生労働省からの圧力や干渉が描かれるのが全ての作品の特徴だ。

 

 主人公の田口医師は、神経内科専任講師。血を見るのが嫌で神経内科にいるのだが、やる気はまるでない。中年の独身男で出世もしていないのだが、なぜか病院長には気に入られ「リスクマネジメント委員会」の委員長など、要職を拝命している。もうひとりの主人公白鳥は、厚労省官房秘書課の妓官。「屁理屈」をこねるのがうまく、ツラの皮が厚い。

 

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 今回の主要な舞台である救急救命センターを仕切るのは、速水センター長。田口と同期だが、出世頭であり「血まみれ将軍」のあだ名を持つやり手だ。彼は新人のころ、付近のショッピングセンターの火事で大量の患者が運び込まれた時、病院長不在をいいことに病院全部を指揮下に置きルールを無視して多くの命を救った「伝説」の医師である。

 

 そんな彼とICU(集中治療室)が業者との癒着、賄賂をとっていたとの疑惑が浮上する。内部通報と思われる告発文が送られてきたのだ。リスクマネジメント委員長の田口が問い詰めると・・・「事実だ」と速水が認め大騒ぎになる。しかし速水が主張するのは救急救命をやればやるほど経費がかさみ、虚偽のレセプトを書くくらいでは間に合わないということ。彼は一人でも多くの命を救うため、経費カットを叫ぶ事務長と争うのをやめて賄賂で赤字補填をしたという。

 

 厚労省出身の事務長、速水を潰そうと画策する教授、困惑する病院長、真実を知る師長(看護負の部門長)に田口と白鳥がからんで、重いテーマを軽妙な会話で展開していく。このシリーズは初めて読んだのですが、そこそこ面白かったです。テーマもいいし・・・でもすこし冗長ですかね。300ページに収めてくれればありがたいです。