新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

「赤狩り」の中、キャシディ家の闘い

 2015年発表の本書は、ロサンゼルスで20年余り映画・TVのライターをしていたデイヴィッド・C・テイラーの作家デビュー作品。日本人があまり知らない米国の「赤狩り」の時代に、ソ連から米国に逃れてきたトム・キャシディ(旧名トマス・カスナヴィエツキ)一家の闘いを描いたものだ。フィクションではあるが、マッカーシズムの中心人物ジョー・マッカーシー上院議員、FBI長官のJ・エドガー・フーバー、マッカーシーの片腕で辣腕弁護士のロイ・コーンなどが実名で登場する。

 

 ブロードウェイで演劇プロデューサをしているトムは妻を亡くし、元ダンサーの後妻メガンと暮らしている。長男ブライアン、長女リーアは結婚して近くに住んでいる。次男のマイケルは独身で、刑事をしている。一家の結束は強いのだが、思わぬことから「赤狩り」旋風に巻き込まれることになる。

 

 1953年の大晦日、マイケルは張り込みをして強盗を逮捕した。しかしその捕物騒ぎでロイ・コーンとトラブルになる。若いがエリートで権力に近いロイは、マイケル・キャシディを恨んでキャシディ家を調べ始める。

 

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 マイケルが次に担当することになったのは、陰惨な拷問の末に死を迎えた若いダンサーの事件。犯人は何かをしゃべらせようとしたようだが、聞き出す前に被害者は心臓発作で死んでしまった。被害者には闇の金づるがあったようで、マイケルは被害者が強請りをしていて、そのネタはまだどこかに隠されているらしい。

 

 しかし捜査は突然FBIに差し止められ、CIAの影もちらつく。上司にも内緒で捜査を続けるマイケルの前には、不思議な美女も現れる。一方、ロイはトムの卒爾がロシアだと知り、ソ連のスパイだとの偽情報を流して裁判にかけるよう仕向けた。

 

 マッカーシー上院議員の「赤狩り旋風」は、次々に「赤」のレッテルを張り国民を分断している。レッテルには嘘も混じっているが、熱烈な支持者はそれを信じない。まるで「トランプ旋風」のようだ。ちなみにマッカーシー失脚後、ロイ・コーンは弁護事務所を開き裏社会含めた大物の顧客を持っていた。その中には、若き日のドナルド・トランプもいた。

 

 ダンサーの被害者が強請っていたのは政府の大物、そのネタを手にしたマイケルだが、父親はソ連に送られそうになっていた。「赤狩り」の時代に触れることのできる、興味深いミステリーでした。