新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

泥棒探偵バーニイ登場

 なかなかの手腕を持つ「変わった作家」ローレンス・ブロック、これまでアル中探偵マット・スカダーものや、ノンシリーズ「殺し屋」を紹介してきた。作者には他にもシリーズものがあるのだが、今回ようやく「泥棒探偵バーニイもの」を見つけることができた。ハヤカワで少なくとも5冊が出版されているらしい。本書(1977年発表)が、バーニイ・ローテンバーのデビュー作である。

 

 バーニイは35歳、ニューヨークで一人暮らしをしているが、職業は泥棒。ただ先輩格のルパンなどと同様、犯罪者ではあるが自らの「掟」をしっかり持っている。彼の場合は、徹底した非暴力。愛用の「七つ道具」は忍び込んだり、目標のものを探すためのもので、銃器や大きな刃物は含まれない。

 

 裏社会ではそれなりに名前は売れているし、知り合いの(悪徳)警官もいる。そんな彼に男が近づいてきて「ある部屋から青い箱を盗んできてくれたら、5,000ドル出す」という。簡単な仕事で、前金1,000ドルで引き受けたバーニイだが、忍び込んでみると箱は見当たらず、警官2人に踏み込まれた。

 

        

 

 警官のうち一人は旧知(でワイロも利く)レイなのだが、もう一人は新人。バーニイはレイに前金の1,000ドルを渡して見逃してもらおうとしたが、奥を調べていた新人警官が「人が死んでいる」と言い出し、殺人容疑者にされてしまう。

 

 その場は逃れたものの、自宅にはすでに手が回り、バーニイは大都会で潜伏する羽目に。プロの泥棒である彼には、真の友人や恋人もいない。仮にいたとしても、自宅同様手が回るだろう。数週間不在にしている知り合いのアパートに忍び込んだバーニイに、その部屋の男の知り合いの女が訪ねて来て力を貸してくれるようになった。バーニイは自分をハメた依頼人を探し出し、殺人事件を独自に解決しようとする。

 

 バーニイの泥棒テクニックや道具の扱い、特に鍵の開け方が詳細に描かれる。姿の隠し方、目立たずに入り込むやり方など、凡百のスパイスリラーよりずっとサスペンスフル。さらに犯行現場に再度忍び込んで、わずかなてがかりから事件の真相を掴むところは、立派な「名探偵」である。

 

 作者の特徴、ウィットに富む台詞を随所にちりばめた語り口の妙が、他の作品より際立って見えます。このシリーズ、もっと探してみましょう。