新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

民主化ロシアと国連航空軍

 昨日デイル・ブラウンの、やや荒唐無稽な軍事スリラーを紹介した。もうちょっとで「架空戦記」か「SF」の領域に入りそうだった。1996年発表の本書は、日本では数少ない航空軍事スリラー作家鳴海章の、「ユニコーン(国連航空軍)もの」。ソ連崩壊の後、彼の世界ではロシアは民主化に成功し、ロシアを含めた国連の合同軍が編成され世界の紛争に対処するようになっている。

 

 記憶では前作「ユニコーン出撃指令」では、日米露の航空軍が協力をしてタイ・ミャンマー国境の紛争に介入、武装勢力を叩くと言うストーリーだった。もちろん国連の名においても日本軍は「憲法9条」に違反は出来ず、攻撃力のないステルス偵察機<ブラック・ファントム>を駆っての作戦だったが・・・。

 

 本書の敵役は、北朝鮮中国東北部・ロシア沿海州を統合した<ダブルデルタ共和国>を設立しようとする共産主義勢力。直前のロシア大統領選挙では、現職の民主派大統領が共産党推薦候補を大差で破った。ロシアの民主化に寄与した米国大統領も、2期目は確実と思われている。きっと共和党じゃないよね。

 

        f:id:nicky-akira:20220321153250j:plain

 

 しかし共産勢力はあきらめず、ロシア軍輸送船が根室沖に漂着して、その積荷に<SS-19>用の核弾頭3発があることを知ってこれを奪取しようとする。日本政府は、政府専用機B747-400)を使って核弾頭を米国に運ぼうとするのだが、ニューヨーク発成田行きの民間機(B747-300)をハイジャックして、ジャンボジェット同士を交換しようともちかける。

 

 いろいろな意味で航空機に詳しい作者は、B747-400とー300の違いや旅客機・戦闘機のオペレーション、戦闘機パイロットの日常生活まで触れながら物語を進めていく。ハイジャックの手法は、ニューヨーク発成田行きの005便と007便に爆弾を仕掛け、先行した007便を爆破して見せるという凶悪なもの。これを実行したハッカー集団を追う、FBIたちと犯行グループの戦いも凄惨だ。クライマックスは政府専用機に襲い掛かるSu-27と、空自のF-15Jの4対4の空中戦。なかなかの迫力で作者の腕の見せ所なのだが、航空自衛隊がサハリン上空まで出張って銃火を交えるというのが、ちょっとイメージできなかった。

 

 ロシアが民主化するかもしれないと世界が思っていたころの、ある種のファンタジーだったのかもしれません。