新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

クライシスコミュニケーションの実例

 本書は、戦後日本最大の危機だった東日本大震災と、それに伴って起きた福島第一原発事故の数日間を、TVメディアがどう伝えたかをダイジェストしたもの。筆者の伊藤守氏は、社会学専攻で早稲田大学メディア・シティズンシップ研究所所長。震災後1年経った2012年春の出版である。

 

 未曾有のマグネチュード9.0クラスの地震によって、東北地方の原子力発電所は全て自動停止した。そこに20m級の津波が襲い、やや高台にあった福島第二など他の原発津波被害を逃れたが、福島第一では4基の原子炉が全電源喪失という緊急事態に陥った。本書の大半は、3/11~17の間政府がどのような情報発信をし、TVメディアがそれをどう伝えたかをまとめたもの。視点としては、

 

        

 

1)政府の情報コントロールを突き破る取材ができたか

2)TVメディアに登場した専門家は役割を果たせたのか

3)TVメディアは被災者/避難者を守る報道を行えたのか

 

 の3点である。以前紹介した、政府発表をそのまま流す「アクセス・ジャーナリズム」ではなく、権力に不都合なことも炙りだす「アカウンタビリティ・ジャーナリズム」ができたのかということになる。

 

 結論としては、それらは不十分だったということになる。早期に「炉心溶融」の可能性を訴えた専門家は、以降どのTVにも呼ばれなかった。海外の専門家が「ただちに20km圏内の人は避難」を進めても、日本の専門家は「事情も分からず混乱をあおるだけ」と否定した。

 

 筆者はチェルノブイリ事故や<もんじゅ>の事件を例に引き、政府は意図的な情報隠蔽や公表の遅滞を行ったとの前提(大本営発表!)で議論を展開している。この点については、当時の政府広報関係者は否定し「分かったことは全部発表した」と言っている。

 

 危機管理の勉強の一環で読んでみた本ですが、ネットメディアの扱いが僅少だったのが不満でした。新旧メディアの比較論を見たかったのですが。