新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

「オクトーバー」という好敵手

 ジャック・コグリン(&ドナルド・A・デイヴィス)の描く「狙撃手」シリーズの主人公カイル・スワンソンには、同等の狙撃能力を持った好敵手「ジューバ」がいる。これと同じようなテイストの、好敵手物語に出会った。作者のダニエル・シルヴァは、本書が二作目。デビュー作「マルベリー作戦」は、第二次欧州大戦下ノルマンディ上陸作戦を背景にした戦争・諜報小説だった。本書は現代に時代を移し、CIAの工作担当官(Case Officer)マイケル・オズボーンが主人公を務める。

 

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 冒頭ニューヨークJFK空港を飛び立ったジャンボ機が、ロングアイランド沖に浮かんだボートから発射されたスティンガーミサイルで撃墜される。アフガニスタンに侵攻したソ連軍は、現地の武装部族をはるかに上回る機動力・火力を持っていた。特にMi-24などの武装ヘリは猛威を振るい、これを駆逐する目的で持ち込まれたのがスティンガーである。
 
 重量は15kgあまり、一人で運んで発射でき、ホーミング機能を持つので打ちっぱなし(Fire & Forget)ができる優れものだった。問題はソ連軍が退いた後で、膨大な数のスティンガーが回収できずに終わった。これらがテロリストの手に渡ったという設定である。
 
 スティンガーは、精々4,000mまでの高さまでしか届かない。巡航高度にいる旅客機は安全だが、離着陸時を狙われたわけだ。本書の発表は1998年、3年後の悲劇を予想させるような事件である。この結果、二期目をめざしながら大統領選で敗色濃厚だった共和党の現職大統領が息を吹き返す。犠牲者にテロとの戦いを捧げるとして、軍備強化を宣言する。この宣言と続く報復戦闘が評価され、現職は逆転勝利する。そして、軍需産業トップとの交際を深めていく。
 
 実際にスティンガーの引金を引いたのは、イスラム過激派だった男。しかしその男はじめ、事件に関与したと思しき人物が「オクトーバー」という暗号名の暗殺者に次々に殺される。この事件を、かつて「オクトーバー」に恋人を殺されたCIAのオズボーンが追う。
 
 オズボーンはCIAの工作担当官だが、現場を離れ資産家の妻も得てワシントンDCに居を構えジャガーを駆る。CIAだが富裕層という設定は珍しい。不妊治療をする妻(義父は上院議員)を愛しているが、CIAの仕事も捨てられない。このあたり、ホームドラマっぽい雰囲気もある。
 
 一方「オクトーバー」は冷徹極まりない殺人者。かつてのパートナーも、自らの安全のためには素早く始末する。今回組んだ女テロリストから「役に立たなくなっても殺さないで」と言われて、「もちろん」と答えているが、もちろん違う。「オクトーバー」の正体に迫ってきたオズボーンを危険に感じた黒幕は、「オクトーバー」にオズボーンの始末を依頼、ついに二人は対決する。「ゴルゴ13」を思わせる殺人マシンである「オクトーバー」に対し、CIA要員とはいえ人を殺したことはないオズボーン。それでも知恵と地の利を使って、オズボーンは悪魔に立ち向かう。
 
 ストーリーとしては、どこかで読んだことがあるようにも思う。しかし登場人物が生き生きしているので、あっという間に読み終えてしまった。この作者、なかなか読ませますね。