新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ワシントンDCのラブストーリー

 1982年発表の本書は、第二次世界大戦パイロットとして従軍経験もある脚本家デビッド・オズボーンのスパイスリラー。作者はマッカーシズム旋風の時期には米国を離れていたが、1976年に欧州から戻っている。欧州にいたころからぽつりぽつりと作品を発表し、本書が第四作。

 

 主人公は美しく行動的なジャーナリストとして米国TV界のヒロインだったが、ユダヤ系米国人実業家の妻となったアレクシス。夫のハロルドは突然政治家に転じ、現政権で国務長官を務めている。アレクシスはまだ34歳、50歳代の夫のとの子作りもあきらめてはいない。

 

 しかしハロルドは世界を駆け回り、DCの自宅にいる時も外国要人を招いたパーティや会議ばかりだ。事務方の想像を越える外交成果を挙げていることから、あと6年は現職だろうと言われている。

 

        

 

 そんな国務長官の周辺で、ポルトガルの将軍からの使者が惨殺されるなど、奇妙な事件が相次ぐ。疑惑は、ハロルドがソ連のスパイではないかというところにまで広がってしまう。調査を命じられたCIAのファー捜査官は、事件の重大さに気後れする。彼は黒人で、妻もエリート医師だが黒人。

 

 ハロルドへの疑惑を知ったアレクシスの(ジャーナリストの目)から見ると、ハロルドには怪しい点がいくつも見つかる。ハロルドの身辺を探るためにCIAが利用していた美術史家が自殺に見せかけて殺されるに及んで、ファー捜査官はアレクシスに接触し始める。

 

 主ストーリーはポルトガル共産党の暗闘と軍のクーデター計画を巡るものなのだが、事件関係者の恋人関係、ファー夫婦の日常、ハロルドとアレクシスの愛などが複線で走る。まるでワシントンDCという無機質な政治の街での、ラブストーリー集だ。ユダヤ系、ポーランド系、アフリカ系などの人種問題も絡むようだが、日本人にはニュアンスがつかめない。

 

 設定は面白いスパイスリラーなのですが、迫力はイマイチでした。

<泥沼の家>の命運を賭けて

 2016年発表の本書は、これまで「窓際のスパイ」「死んだライオン」を紹介したミック・ヘロンの<泥沼の家>シリーズ第三作。英国情報部の落ちこぼれが送られる組織<泥沼>には、アル中、ヤク中、仲間に暴力、大ドジを踏むなど各所で持て余した諜報員や管理者が集まっている。

 

 リーダーのジャクソン・ラム以外はフラットな組織だが、ラム自身、下品で太っちょの困ったちゃん。部下にも、まっとうな指示もアドバイスもしない。しかしいざとなると、ラムは知恵を発揮するし、音を立てずに歩け、短い時間なら格闘もできる。

 

 今回は、ラムの秘書役キャサリンが誘拐されるシーンで幕が上がる。彼女も有能な管理者なのだが、アル中克服に苦心している。誘拐したのはかつて彼女と縁のあった陸軍中佐のドノヴァン、彼女を人質にして突き付けた要求はMI-6本部へ侵入して機密情報を盗むこと。要求を受けたリヴァーは、ラムにも黙って単独で行動に出る。

 

        

 

 この誘拐の裏には、MI-6保安局のトップとNo.2(いずれも女性)の対立関係と、スタンドプレーが得意な新任内務大臣(MI-6を管掌)の陰謀があった。実は誘拐から情報窃取計画は仕掛けられた<ペネトレーション・テスト>、政府関係者が自らの情報管理の穴を探すものだった。しかし受託していた民間警備会社の社長が殺され、テストではなく実際の陰謀になっていたことがわかる。保安局からは「24時間以内に解決しないと<泥沼>を廃止する」と通告され、ラムは(いやいや)蒸し暑いロンドンでキャサリン救出に動き出す。

 

 面白かったのは英国の情報管理の暗号。

 

・極秘情報 スコットレベル

・機密情報 ヴァージルレベル

 

 とあり、<サンダーバード>の兄弟の名前が使われている。(本当かね)

 

 また紙ベースの情報をデジタル情報より重視する姿勢など、参考になることが多かった。これ、英国大使館の知り合いに確認してみましょう。

消えた機密文書と臨時職員(後編)

 英国のEU加盟計画などがあり、大使館の文書係は多忙を極めていた。だから本来なら臨時職員を充てることはない仕事を、ハーティングに任せざるを得なかったわけだ。彼の有能さは役に立ったが、それが事件を招いている。

 

 ハーティングは、目立たない男。休日は教会に出かけて音楽を奏でるなど、敬虔なキリスト教徒だが、他にとくべつな趣味も無さそうだ。しかしターナーの執拗な聞き込みは、ハーティングの隠れた一面をあぶりだす。絶世の美女と婚約していたこともあるし、大使館や西ドイツ政府の高官の妻などに、見事な手管で近づいたという。

 

 機密文書を管理している女性にも近づき、ほんの5分間だけ文書保管庫のカギを持ち出したこともわかる。果たして彼はソ連のスパイだったのか?ハーティングの人物像に、自分と似たものを感じたターナーは執拗に事件をつつきまわす。官房長のブラッドフィールドはその行動に眉を顰め、後半は両者の対立が際立ってくる。

 

        

 

 ブラッドフィールドは良くも悪くも官僚主義、どうせ完全な対応は出来ないと割り切っている。ターナーの捜査対象に、西ドイツ議会の大物議員やドイツ統一を掲げて人気を集める活動家に及ぶようになればなおさらだ。作者が描こうとしたのは、組織の不確実・官僚の老獪さ・扇動者の非人間性だと解説にある。戦後のドイツ人とユダヤ人の意識、ドイツ人を見下す英国人、ドイツ人のナショナリズムなど複雑な人間関係を背景に、姿を見せないハーティングの人間像が徐々にあぶりだされてくる。

 

 暴漢に襲われたり、帰国を命じられながらターナーはハーティングと機密文書を追い続け、ついに第二次世界大戦末期にドイツの小さな町で行われていた陰惨な化学実験に行き当たる。自らスパイだったという作者の、抑えた筆致が重く響く作品でした。段落が少なく、読みづらいのが難点でしたけれど。

消えた機密文書と臨時職員(前編)

 本書は回顧録「地下道の鳩」などを紹介したスパイ作家ジョン・ル・カレの、本格的なエスピオナージュ。1968年の発表で、当時は英国のEU(EECだったかな)入りや、東西ドイツ再統一などで世論は沸騰、西ドイツやベルギーではデモの嵐が吹き荒れていたころ。まだワルシャワ条約機構は充分な勢力を持っていたが、作者は東側の政治的行き詰まりと、ドイツ再統一は近いと考えていたようだ。

 

 舞台は、西ドイツの首都ボンにある英国大使館。ある日、ドイツ人の臨時職員ハーティングが機密文書を持ち出して失踪するという事件が起きた。彼はユダヤ系であり、ナチスの迫害を受けて少年期に英国に渡り、故国に帰って大使館職員になった。決して昇進することはなく福利厚生にも恵まれない臨時職員を、真面目に20年続けていた。

 

        

 

 そんな彼が、本来アクセスできない機密文書をどうやって持ち出せたのか?またなぜそのようなことをしたのか?英国外務省は、公安部のターナーを現地に派遣し真相の究明と、文書の奪還を図ろうとする。万一文書が公開されれば、英独関係に決定的な不和が生じる。

 

 ターナー自身も決してエリートではなく正義感が強い古いタイプの公安官、現地の責任者である大使館官房長のブラッドフィールドとはソリが合わない。同じ目的を持つはずの2人は、泥臭い現場人と華やかな外交官という対照的に描かれている。

 

 ターナーは決して焦らず、大使館の文書係を中心に綿密な聞き込みをする。前半はほとんどがターナーが関係者に行う(ソフトな)尋問の会話で占められている。なだめたりすかしたり、ある時は意表を突く質問を交え粘り強く関係者から情報を得ようとする手法は、実際に作者が経験したものだろう。

 

 しばらく前に文書係に配属になったハーティングは、変わり者で人付き合いはしないが、事務的にはとても有能で、徐々に文書係の仕事に入り込んでいたという。

 

<続く>

地球人役もなかなかいいね

 このDVDは、以前シーズン2&3を紹介した「Mission Impossible」のオリジナル版シーズン4。マーチン・ランドーとバーバラ・ベインの夫婦が降板して、変装名人役パリスとしてレナード・ニモイが加わった。「Star Trek」でヴァルカン人との混血スポック副長を演じた俳優で、スリムな長身とシャープな顔立ち(特に眉)が特徴。地上波で見た時(50年以上前)は、ランドーたちの方がいいなと思っていたのだが、今見直してみるとニモイの地球人役もなかなかいい。

 

 女性レギュラーがいなくなった分、毎回違う美人スパイが登場する。印象としては、初期の頃の「007ボンドガール」のようなもの。みんな綺麗なのだが、化粧の仕方含めてタイプはよく似ている。

 

        

 

 少し現実離れしたところもあるが、ストーリーの面白さは以前のシーズンと変わらない。「海の底で口を割れ」は、ナチスドイツの旧式潜水艦に仕立てたセットを作り、爆雷攻撃を受けたように見せかけて機密の隠し場所を喋らせるトリックだった。この話が代表的だが、大仕掛けが増える傾向にあり、レギュラー+女性メンバー+劇団がよく登場する。例によって「自動的に消滅するテープ」で指令を受けたジム・フェルプスが、メンバーを選ぶ冒頭シーンで、○○劇団が選ばれると「お、大仕掛けだな」と嬉しくなる。

 

 「王家の血」は、3週間にわたって放送された大作。欧州某国で、王家の血をひく3人を幽閉するなどして政権奪取を図る悪将軍、彼が政治指導者になれば東側に走ると思われた。3人を救い将軍の意図をくじけというのがジムたちが与えられた任務。ハヤブサまで使って二重三重のワナを仕掛けるチームだが、将軍の側近の思わぬ行動やアクシデントで何度も窮地に陥る。

 

 覚えている懐かしいシーンもありました。これはシーズン5以降も探さないといけませんね。