新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

<泥沼の家>の命運を賭けて

 2016年発表の本書は、これまで「窓際のスパイ」「死んだライオン」を紹介したミック・ヘロンの<泥沼の家>シリーズ第三作。英国情報部の落ちこぼれが送られる組織<泥沼>には、アル中、ヤク中、仲間に暴力、大ドジを踏むなど各所で持て余した諜報員や管理者が集まっている。

 

 リーダーのジャクソン・ラム以外はフラットな組織だが、ラム自身、下品で太っちょの困ったちゃん。部下にも、まっとうな指示もアドバイスもしない。しかしいざとなると、ラムは知恵を発揮するし、音を立てずに歩け、短い時間なら格闘もできる。

 

 今回は、ラムの秘書役キャサリンが誘拐されるシーンで幕が上がる。彼女も有能な管理者なのだが、アル中克服に苦心している。誘拐したのはかつて彼女と縁のあった陸軍中佐のドノヴァン、彼女を人質にして突き付けた要求はMI-6本部へ侵入して機密情報を盗むこと。要求を受けたリヴァーは、ラムにも黙って単独で行動に出る。

 

        

 

 この誘拐の裏には、MI-6保安局のトップとNo.2(いずれも女性)の対立関係と、スタンドプレーが得意な新任内務大臣(MI-6を管掌)の陰謀があった。実は誘拐から情報窃取計画は仕掛けられた<ペネトレーション・テスト>、政府関係者が自らの情報管理の穴を探すものだった。しかし受託していた民間警備会社の社長が殺され、テストではなく実際の陰謀になっていたことがわかる。保安局からは「24時間以内に解決しないと<泥沼>を廃止する」と通告され、ラムは(いやいや)蒸し暑いロンドンでキャサリン救出に動き出す。

 

 面白かったのは英国の情報管理の暗号。

 

・極秘情報 スコットレベル

・機密情報 ヴァージルレベル

 

 とあり、<サンダーバード>の兄弟の名前が使われている。(本当かね)

 

 また紙ベースの情報をデジタル情報より重視する姿勢など、参考になることが多かった。これ、英国大使館の知り合いに確認してみましょう。