新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

メディアが「分断」に加担する

 2020年発表の本書は、同志社大学グローバル・スタディーズ研究科教授内藤正典氏(多文化共生・現代イスラム地域研究が専門)の「分断」研究。世界で各種の分断が発生し亀裂が増しているが、政治とメディアがあるべき対応をしなかったからだとの主張が垣間見える。

 

 例えば米国政府は、9・11テロを受けて「テロとの戦い」を宣言し、真のテロリストだけではなく多くのイスラム教徒をテロリスト呼ばわりした。国内でもレイシズムがはびこり、BLM運動など社会問題が大きくなった。トランプ政権では「偽ニュース」というレッテル貼りも頻発した。CNNとFOXが正反対の論陣を張るなど、メディア自身も分断され、国の分断を助長している。

 

        

 

 中東や北アフリカの混乱は「アラブの春」から始まる。独裁者が倒れるもののイスラム政権が出来、多くの国で民主化は夢となり、軍事クーデターも起きた。唯一チュニジアでは、イスラム政権と市民4団体が冷静に話し合う場ができて、穏当なイスラム政権になった。

 

・シリアではアサド政権が延命、化学兵器を使うなど暴政(*1)をしている

・トルコは比較的安定しているが、クルド民族弾圧のレッテルを貼られている

 

 カタールではアルジャジーラという独立メディアが中立的な報道をしているが、他の国では国営放送がプロパガンダを流すだけ。エジプトのシシ政権は、アルジャジーラ記者を拘束し支社を閉鎖した。サウジアラビアムハンマド皇太子を糾弾していたカショギ記者は、暗殺されたと思われる。

 

 欧州でも、押し寄せる移民・難民に対し市民の反感を煽る政治家・メディアも多い。本来「難民」とすべき人たちを「不法移民」とレッテル貼りをすることもある。

 

 このようにメディアの責任が増える中、国営放送でありながら政権に忖度せずフェアな報道を続けるBBCを、筆者は褒めています。さて、日本の公営放送はどうでしょうか?

 

*1:表紙の写真はシリアで市民を救うホワイトヘルメットの人たち。イスラム国からは不信心者と言われ、政府からはテロリストと言われる