イギリスの一番北の端、すでの北極圏にあるシェットランド諸島を舞台にしたアン・クリーヴスの4部作は、その叙情的な描写が美しい独特の作品群である。4部作の第一作「大鴉の啼く冬」が2006年に公表されたが、クリーヴス自身はその時点で作家キャリアは20年に及んでいる。にもかかわらず日本に紹介されたのが、「大鴉が啼く冬」が最初だったらしい。
さて本書だが、前作は全く陽の上らない中での殺人事件だったのだが、今度は逆に陽の沈まない「白夜」に起きた殺人事件に、前作と同じペレス警部とテイラー警部が挑む話だ。ペレス警部はシェットランドで生まれ育った地元っ子で島に駐在、テイラー警部はリバプール生まれで本土の警察署に勤めている。
シェットランド本島西岸の集落ビディスタには、ペレス警部の恋人フランが住んでいて、フランと有名な画家ベラの二人展が開催されていた。そこに不審な行動をする中年男がいて、ペレスは別室に連れ出して問い詰めるのだが男は記憶喪失だという。展覧会に来ている人たちが面識がないというその男は、いつの間にか姿を消し翌朝絞殺死体となって発見された。閉ざされた集落、真夜中でも沈まない太陽の下では、
・誰もが秘密を持っている。そうでなければ気が変になる。
・ずっと昼間という環境では、どこかおかしくなっても仕方がない。
と住人は言う。誰もがみな知り合いで、日々お互いを監視し合っているように他の街や島・本土から来た人たちは思っている。集落で生まれ育った男は、「自分が子供だった頃、ここには5人子供がいた。2人は島を去り3人は今もここに居る。一番有名になったのが画家のベラだ」という。ちなみに今、集落の子供はひとりだけだ。
捜査の当初全く正体の分からなかった被害者の身元がようやく見えてきた時、ベラの甥にあたる有名なミュージシャンが海岸の崖下に落ちて死んでしまった。どうも突き落とされたらしい。集落の出身ではないが土地勘のあるペレス警部は、関係者から粘り強い聞き込みを続け、5人の子供たちが成長したころに何かの事件があったことを突き止める。
ともすれば冗長となりがちな変化の少ないストーリーを、約500ページも引っ張って読ませるのは、作者の表現力だと思う。ミステリーとしてよりも、その叙情的な表現力を買えるシリーズです。あと2冊本棚にありますから楽しみです。