1994年発表の本書は、ロマンス小説家として地歩を築いていたジャネット・イヴァノビッチが初めて書いたミステリー。英国推理作家協会から当該年の最優秀処女長編賞に輝いた作品である。舞台となったのはニュージャージー州の州都トレントン、ニュージャージー州は東部海岸沿いに位置し、ニューヨークとフィラデルフィアの双方にほど近いところ。
最大都市ニューアーク(人口28万人)は港町だが、トレントン(人口8万人)は内陸の町。人口の5割がアフリカ系、白人は35%ほどだが大半はWASPではない。本書の主人公ステファニー・プラムも、イタリア・ハンガリー系移民の血筋だ。イタリア系住民の多い貧困街で育った彼女、狭い町ゆえ住民のほとんどが親戚同然の付き合いをしている。
街のいたるところに小学校の同級生がいるし、子だくさんのゆえか従兄弟も多い。彼女は30歳、バツイチ。175cmの長身でスリム、活発な女性だが務めていた洋品店が破綻して失業してしまう。両親や祖母も元気なのだが、世話になりたくない彼女は、従兄弟の保釈保障会社経営者に頼んで「賞金稼ぎ」を始めることにした。
日本ではなじみのない商売だが、裁判まで保釈してもらうための保釈金が用意できない容疑者に保釈金を貸す「保釈保障」がある。しかし犯罪者の事で、保釈されたら逃げてしまうヤカラも多い。保障会社はそのままだと貸し倒れなので、逃亡者を連れ戻す必要があり、その時雇うのが「賞金稼ぎ」というわけ。保釈料の10%が成功報酬として「賞金稼ぎ」の手に入る。
借金を抱え困っているステファニーは保釈料10万ドルの大物を狙うのだが、それは2歳年上の幼馴染みジョー・モレリだった。まだ童女だったころいたずらされた記憶がある相手だが、モレリは優秀な警官で素人の彼女が捕まえられる相手ではない。それでも彼女は財布をはたいて買った(400ドルした)、S&W.38の5連発を手に街に出ていく。
ちゃんと家事をするイタリア系の貧しいけれど暖かい家庭、無知で粗暴、女を痛めつける趣味のある黒人ボクサー、リスクを知りながら路上に立つ街娼、クルマの盗難は当たり前なのでそれを防ぐ術など、庶民の生活がなまなましい。
お金はかからないけれど美味しい料理も出て来て、リアルだけれどユーモラスなストーリーでした。この作者、他の作品は書店でも見当たりませんね、残念です。