新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ニューヨーク湾岸地区1982

 1994年発表の本書は、エド・ディーのデビュー作。ニューヨーク市警本部組織犯罪部の2人の刑事が活躍する、「刑事ライアン&グレゴリー」シリーズの第一作でもある。作者自身この組織犯罪部で20年勤務したということで、その活動や相手方となる犯罪組織の細部については充分な意外性やリアリティがある。

 

 原題の「14 Peck Slip」というのは、イタリア系組織(マフィア)が巣くうペック・スリップ地区14番地の意味。組織犯罪部情報課に勤務する主人公のライアン(わたし)は、43歳。アイルランド系とイタリア系の混血で、長男はすでに大学生、長女はシングルマザー。そう、彼は若いおじいさんというわけ。情報課は組織の内部を探るのが仕事、夜の出動は多いが荒っぽいタスクではない。しかし妻は、早く転職して欲しいという。本人ももうじき来る勤続20年で年金も付くので、そうしてもいいかなと思っている。

 

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 もう一人の主人公で、ライアンの相棒であるグレゴリーは47歳。やはり刑事だった父親と2人暮らしで、刑事が天職と心得ている。彼の当面の目標は、父親が退職時にやっていた「一級刑事」になること。そのため成績を挙げようと、ライアンが眉を顰めることも平気でやってのける。

 

 ある夜、魚市場を見張っていた2人は、3人の男が埠頭に白いドラム缶を沈めるのを目撃する。3人は、イタリア系組織の頭目とその子分であることがわかる。翌朝埠頭にダイバーを潜らせるとドラム缶は見つからなかった代りに、ゴミバケツにコンクリート詰めされていた遺体が引き上げられる。それは、10年前に行方不明になっていた悪徳警官の遺体だった。彼は汚職で捕まり司法取引で、他の悪徳警官の名前を証言する約束をしながら失踪していた。

 

 警察内にも容疑者がいることから、捜査は殺人課ではなくライアンたちに周ってくる。というより重要事件を解決して出世しようと、グレゴリーが仕掛けたのだ。2人は犯罪組織の資金源となっている埠頭や生まれ育ったブロンクスで警官殺しの犯人を追う。都市改造計画が進み始めたばかりのニューヨークの下町が、ヴィヴィッドに描かれる。マフィアの元頭目がいう「10年後にはイタリア系の出る幕はない。麻薬はスペイン系、賭博はアフリカ系が握り、中国人もいる。5年で中国人の天下だ」は生々しい言葉。組織の悪さ、警官の恥部など、とても面白い警察小説でした。続編は翻訳されているのでしょうか?