新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

Homegrown-Terrorist、ジューバ

 2009年発表の本書は「狙撃手スワンソンもの」の第二作。海兵隊屈指のスナイパーだったジャック・コグリンが、ベテラン作家ドナルド・A・デイヴィスの助けを得て書き続けるシリーズは好調だ。

 

 昨日紹介した前作「不屈の弾道」で、シリアで人質になっていた海兵隊のミドルトン准将を救出したカイル・スワンソン一等軍曹だが、自身は重傷を負った。数次の手術を受けて回復した彼は、表向き「戦死者」としてアーリントンに葬られたことになった。昇進したミドルトン少将が大統領直下の組織を造り、そこで本来は許されない「汚れ仕事」をするスナイパーとして任務に就くことになる。

 

 米政府は「暗殺」という手段を認めていない。しかし国際情勢によっては、そのような非常手段に訴える必要もある。カイルを死んだことにして10名ほどの支援要員を付けたチーム<トライデント>は、実質的に「チーム:スワンソン」である。米軍御用達の「ゴルゴ13」というわけ。

 

 例によってハイテク兵器企業社長夫妻のヨットでくつろいでいたカイルに、呼び出しがかかった。イラン・イラクで開発された大量破壊兵器の情報をもたらした科学者が、厳重な米軍の警備の中で狙撃されたのだ。遠距離から急所を撃ちぬく技術は、カイル並のスナイパーだ。

 

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 イスラムテロ組織の長サラディンの右腕、ジューバは英国人とアラブ人のハーフ。英国産まれで、英国特殊部隊の上級軍曹としてスナイパーを務めていた。しかしサラディンの指示を受けると、テロリストに変身する。まさに「Homegrown-Terrorist」である。

 

 イラン・イラク国境では毒ガス兵器が開発されていた。秘密を米国にもたらそうとした科学者を殺し、ロンドンで数千人の犠牲者を出すテロをジューバは引き起こす。狙いは毒ガスを国やテロ組織に売りつけること。カイルたちは開発拠点を潰し、パリに潜伏していたサラディンを暗殺するのだが、ジューバはまんまと逃げ延びサンフランシスコでより大規模なテロを企画する。ほぼ互角の能力を持ったカイルとジューバ。2人は同じ海兵隊の狙撃銃L40A1を手に、一騎打ちをする。

 

 スナイパーのアクション(動かないことも含む)については、さすがのリアリティ。とても面白かったです。あと1冊、本棚に残っているのが楽しみです。