2007年発表の本書は、海兵隊屈指のスナイパーだったというジャック・コグリンが、ベテランのノンフィクション作家ドナルド・A・デイヴィスの助けを借りて書き上げたもの。イラク戦争はじめ多くの戦場を経験した作者は、除隊後自伝的ノンフィクションを書いたが、本書で本格的な軍事スリラー作家としてデビューしている。
スナイパーものとしては1993年「極大射程」に始まるスティーヴン・ハンターの諸作が大好きだったが、本書はある意味ハンターを上回る迫力ある戦闘シーンが魅力的。ストーリーテラーとしてはマーク・グリーニーの方が上かもしれないが、リアルな戦闘シーンでは作者の方が上かもしれない。
主人公のカイル・スワンソン一等軍曹(ガニー)は、海兵隊で一番のスナイパー。上司の命令に従わずテロリストを射殺したために、前線から外されていた。休暇を兼ねて友人のジェフ夫妻のヨットで地中海クルーズを楽しんでいるのだが、実はこれもジェフのハイテク兵器企業のお手伝い。この企業が試作した<エクスカリバー>という.50口径狙撃銃は、電子戦能力が高く、重量は通常のバレットライフルの半分ほど。この試射を顧客たちの前で披露するのが、カイルの仕事だった。
しかしそこに、DCの安全保障担当大統領補佐官から急の呼び出しがあった。中東で海兵隊のミドルトン准将の車列が襲われ、護衛は全滅、准将が拉致されるという事件が起きたのだ。准将は紛争中のシリアに運ばれたらしく、直ちに救出部隊が編成された。そこに加わることになったカイルに、補佐官は「救出が失敗したら、准将を暗殺せよ」と指示される。
実は米国議会では、軍の民間委託拡大の法案が審議中で、反対派の准将は民間軍事機関からは疎まれていたのだ。組織のネットワークは米国政府中枢部にも及んでいて、救出部隊の情報はシリアの犯罪組織側に漏れていた。救出部隊の中で一人生き残ったカイルは、<エクスカリバー>を携えて准将救出作戦を始める。
20世紀の内から「戦争民営化」は拡大していた。基地運営や食糧・水などの輸送、広報警備や前線での要人警護まで、民間企業への委託は進んでいる。そんな民間軍事組織が企てた計画は、カイル軍曹の活躍によって窮地を迎える。このシリーズ、なかなか期待できそうです。あと2冊買ってきました。楽しみです。