新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

あらゆる暴力が承認された状態

 ロシアのウクライナ侵攻は、新たな30年戦争の幕開けだとする識者もいる。連日報道される残虐行為、これまでもボスニア・ヘルツェゴビナアフガニスタン、シリアなどで繰り返されてきた悲劇である。ただ今回は各国報道機関の注目度が異なり、あまりこの種の報道をしない日本のメディアも、海外報道・映像をお茶の間に流し続けている。

 

 改めて戦争って何なんだっけ、と思って本棚の奥から引っ張り出して再読したのが本書。著者の加藤尚武氏は倫理学者、生命・環境のほか応用倫理学にも通じ哲学の世界で評価の高い著書があるという。

 

 本書発表の時期(2003年)は、米国の対テロ戦争が展開されていて、日本も自衛隊を海外に出すかどうか?憲法9条の解釈は?集団的自衛権は?などの議論が盛んだった。戦争とは「略奪・強姦・拷問・虐殺など、あらゆる暴力が承認された状態」とする定義もあるが、その暴力に制限を設けるためにクリミア戦争以降、各国の間で種々の条約が結ばれてきた。

 

・捕虜の人道的な扱い

・医療従事者などの保護

・非戦闘員への攻撃禁止

・特別な兵器の使用禁止もしくは制限(ダムダム弾、自動機雷、地雷、焼夷弾、潜水艦等)

大量破壊兵器の使用禁止(毒ガス、生物兵器核兵器

 

        

 

 しかし、それらの条約が十分な効果を上げていないことは、今回のウクライナ紛争が証明している。そもそも戦争を制限する考え方とは、

 

1)戦争目的規制(開戦時の制限)

1-1 絶対的平和主義 いかなる軍事行動も軍備も禁止、自衛権すら放棄

1-2 戦争限定主義 今ある戦争状態を収めるための戦争だけは容認

1-3 無差別主義 戦争は国家主権だから、他国はこれを妨げてはいけない

 

2)戦争経過規制(戦争状態における制限)

2-1 相手国の兵士、非戦闘員の人権を尊重

2-2 一般市民は極限状態を除き、攻撃されない

2-3 戦争目的(自分たちの求める平和や国際関係)の明示

 

 とある。筆者は18世紀からの戦争史や哲学者(カント、ヘーゲルら)の考え、東京裁判や原爆投下の是非などの議論を紹介してくれる。筆者のスタンスは全ての先制攻撃は不当で、戦争状態を終わらせるための戦争は是認することだ。このスタンスで、憲法9条は要改正としている。小林よしのり戦争論」の批判から始まり、とっつきやすいと思ったのが間違い。かなり哲学的で、難解な書でした。しかしエッセンスは理解できたつもりです。