新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

満清支配をくつがえせ!(後編)

 闘いの訓練も受けておらず老若男女が混じっている叛乱軍ゆえ、時折痛い目にも遭うのだが、東王楊秀清の指揮もあって北を目指して進撃する。行く先々で清朝に不満を持つ民衆が参加してくるので、軍勢は増えていく。

 

 ただ中心たる洪秀全は、ほとんど表に出てこない。奥の院で教義にふけることが多くなった。都市を獲っても直に移動してしまうので、政府軍は、

 

・都市をいったん明け渡して、官僚や軍は避難

・民衆は置いていくが、殺されるわけではない

・叛乱軍が去った後に、戻ってくればいい

 

 という戦術を編み出す。軍の指揮官は朝廷に「うまく敵軍を補足できなかったものの、奪われた街は直ぐに取り返した」と都合の良い報告が出来るというわけ。遠く離れた北京では、実態を掴めないのだ。もちろん頑固な指揮官が叛乱軍に戦いを挑むこともあるのだが、善戦しても回りの讒訴によって更迭されてしまったりする。

 

    

 

 ついに洞庭湖のほとり岳州に至った叛乱軍は、大量の船を手に入れた。揚子江を下り、南京を窺うようになる。しかし、そのころから「太平天国」内でも腐敗が始まっていた。天主洪秀全は妾として数十人を抱え、各王も徐々に民衆と違って豪勢な暮らしをするようになる。

 

 やがて南京は墜ち、天主はここを「天京」と改名して首都とした。ようやく流浪の軍は落ち着いたのだ。そこから北伐の軍をおこすのだが、本来は下流の上海を獲るべきだったろう。そこには反清朝だが、アヘン(天主が厳禁していた)にまみれた豪族がいて、王たちは「上海の豪族とは距離を置く」と決めたのだ。

 

 南の民である叛乱軍は、天津まではたどり着けたのだが寒さと痩せた土地の厳しさに進めなくなってしまう。清朝上海租界の紅毛人の協力を得て、天京攻略に乗り出す。「太平天国」内でも内紛が勃発して、王たちが相次いで死んでいく。

 

 まさに盛者必衰。知らなかった中国の歴史、十分堪能しました。作者の大河作品はまだ残っていますから、楽しみに読むことにします。