昨日、北村淳著「シミュレーション日本降伏」を紹介した。中国の軍備(質×量)の充実は著しく、現在の日本の安全保障戦略では尖閣諸島はもちろん、その先さえ危ないという警告の書だった。米国在住で軍事情報に詳しい筆者だから、兵器の比較について勉強になった。
ただ戦争というのは人が行うもので、兵器が額面通りの威力を示すには軍人の指揮・士気・練度に加え十分な兵站が必要だ。本当に中国軍が額面通りの戦力を持っているのかが分からなくて、本書を読み直してみた。本書の著者兵頭二十八氏は、元自衛官の軍事評論家。テクノロジーの視点が強いが、戦史にも詳しく多くの著書がある。著者が本書で主張しているのは「中共軍(と本書は言う)は弱い、中共軍は自衛隊に勝てない」ということ。具体的に見ていくと、
・2014年の台湾防衛シュミレーションでは、4機のF-22が80機以上のJ-10/11を墜とした。
・仮にJ-11の後継機が優秀でも、中共空軍にまともなAWACSがなく、戦力にならない。
・中共海軍には対潜能力と掃海能力がなく、潜水艦で機雷を撒かれれば沿岸封鎖をされてしまう。
・陸戦の王戦車も、主力はサダム・フセインが持っていたT-72のコピー。
などといった酷評が並んでいる。技術的な課題もあるが、基本は軍人の能力が低く「和」がないことだと筆者は言う。1555年に倭寇が南京を攻略し数千人を殺した事件では、倭寇の兵力は300人ほどだった。1840年のアヘン戦争でも、一握りの英国軍が暴れまわっている。市民に「政府が長くは続かない」という認識があるのが、中国が弱い原因だとのこと。
筆者は、鄧小平以降中国に真の為政者は出ておらず、胡錦涛らのようなテクノクラートですらない習近平が生き延びるには軍を甘やかすしかないと予測している。ただいくら甘やかされても軍人は自分たちの実力を知っているから、それなりの戦力を持った外国とはコトを構えない。
そんな中共軍がなぜ強く見えるかは、米国軍が仮想敵としての中共軍を強く見せる工作をし、中共軍側もそれに悪乗りしているからだというのが筆者の説。昨日の書に比べて4年古い書ですが、4年で本質が変わるとも思えませんし、米軍情報をまともに受ければ北村氏の書のようになるのかも。軍の実力は闘ってみるまで分からないというのが歴史の鉄則ですからね。