新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

満清支配をくつがえせ!(前編)

 今年陳舜臣の「琉球の風」を読んで、知らなかった歴史に感動した。そこでもう一歩踏み込んで、中国の近世を知ろうと思い手に取ったのが本書(全4巻)。1969年から3年間にわたって<小説現代>に連載されたものだ。アヘン戦争後の中国、清朝は揺らいでいたがまだ大国である。満州からやってきた王朝清は、すでに2世紀ほど圧倒的に人口の多い漢族を虐げ、辮髪を強制するなどの支配を続けている。

 

 1851年1月、南部広西の地に発生したキリスト教系の集団が蜂起し「太平天国」を名乗って、世直しと満清支配の打破を訴えた。次第に勢力を拡大した彼らは、やがて南京を占領して天京と改名して首都とした。そして北京への討伐軍を出すまでになったのだが、内紛もあって1864年に滅びた。本書はその13年間を、福建商人連維材の息子理文とその恋人李新妹を軸に描いている。

 

    

 

 アヘン戦争で欧州列強が影響力を増していたが、一部沿岸エリアを除けば200年変わらぬ満州族の支配がある。漢族の民は塗炭の苦しみにあえぎ、官僚や軍人だけがいい思いをしていた。大病で死の淵をさまよった男洪秀全は、夢の中でエホバの啓示を受け、市民を救うために立ち上がる。教義はキリスト教に沿ったものだが、儒教の影響もあると紅毛の宣教師は言う。

 

 救国のため信者は全財産を聖庫に寄進し、男営と女営に別れて暮らす。夫婦でも会えないのだが、洪秀全とその仲間たち(東王・北王・西王・南王・翼王)は「清朝を倒すまでの辛抱」と説明した。

 

 すでに山賊に近いような連中が清朝の叛旗を翻していて、仲間に加わってくるのだが、私財を認めない洪秀全たちと、略奪が仕事の彼らではそりが合わない。加えて、洪秀全たちが、

 

・官僚や軍人は皆殺し

・一般民衆に手を掛けてはいけない

 

 というのも、彼らには抵抗感がある。それでも「天国」には、大工や鉱夫、漁師など技術を持った参加者も多く、近隣の都市を襲って徐々に勢力を伸ばしていく。対する清朝の軍隊だが、アヘン戦争でも分かるようにまるでだらしない。いくら朝廷(北京政府)が援軍を送っても、反乱軍と対峙しただけで武器も食料も投げ捨てて逃げ去ってしまう。圧政に苦しんでいた民を糾合して、「天国」は数万人の規模にまで膨れ上がる。

 

<続く>