新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

Great Fire Wallの内側で

 今月、中国という困った隣国の高まる脅威に対して、第二次日中戦争のシミュレーションまで(2冊も!)紹介した。実際に戦端が開かれてしまえば、一介の民間人である僕に出来ることは何もない。ただその前に、かの国のデジタル事情を勉強することは可能だ。一時期アリババ創始者馬雲が姿を消していたこともあって、習大人とデジタル経済の間には溝があることは分かっている。その実態を知ることができる本はと探して、ちょっと古い2015年の書だが、本書にたどり着いた。

 

 筆者の高口康太氏は、中国留学経験のあるライター。日本に亡命したかの国の人気風刺漫画家、王立銘氏にインタビューして書き上げたのが本書である。王氏は新疆ウイグル出身、特に高い教育を受けたわけではないのだが、民衆がインターネット上でオピニオンを発する時代に育ち、インターネットで勉強してイラストレーターから風刺漫画家になった。

 

 中国の民主化運動といえば「天安門事件」が有名だが、王氏はその時代のことは知らず、2010年ごろにピークになったインターネット上の民主化運動の中にいた。当時鄧小平時代からの産業育成で、多少の水増しはあるにせよ中国は確実に豊かになった。中産階級が生まれ、主としてネット上で意見が戦わされるようになった。市民か希望に満ちていた。しかし・・・

 

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 王氏によれば、その雰囲気は習大人の首席就任(2012年)で一変する。以前から中国のインターネット環境は「Great Fire Wall(GFW)」の中にあり、100万人の人民解放軍が検閲していた。それもVPNを使えば秘密通話もでき、政府を揶揄する情報も流せた。しかしその後1,000万人の検閲隊が組織され「国家安全法」も施行されて、VPNすら破られるようになった。

 

 習大人に逆らうような、ジャーナリスト・法律家・民主化運動家や王氏のような風刺漫画家まで取り締まられるようになり、彼は日本に逃れた。いくつか印象に残ったコメントがある。

 

・給料は上がったが、物価も高くなった。(だから日本で安いものを爆買いする)

・インターネットは政権に乗っ取られ、御用ブロガーしか残っていない。

・中国の子供は計算力では21か国中1位だが、想像力では最下位。

 

 習大人は民衆を愚民化し、皇帝(長期政権)になろうとしていると彼は言う。当面共産党体制は崩れないとしても、いつか民衆の不満が噴き出す可能性は残ってますね。