新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ニッキー・ポーターの誕生

 エラリー・クイーンは有名な「国名シリーズ」・「悲劇4連作」・「ライツヴィルもの」などの長編のほか、多くの短編や脚本、少年向け作品を手掛けている。中期以降のこれらの作品には、作家/探偵であるエラリー・クイーンの秘書としてニッキー・ポーターというパートナーの女性が登場する。

 
 作者の思い違いか筆が滑ったのか、容姿は時々変わるが総じて赤毛で小柄、細身の活発な女性である。長身でハンサムだが、世間慣れしていなくて無骨なエラリーの補佐役として、時折思い切った行動も見せる秘書である。ただ、タイピストとしての能力は低いようだ。

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 初期の「国名シリーズ」の頃には、クイーン警視とエラリーの男所帯の家事を取り仕切る少年ジューナが登場するが、いつの間にか姿を消した。初登場した1929年にはあり得た少年の執事役などは、おそらく違法になったのだろう。
 
 ジューナが学校に通っている記述はなく、未成年を就学させずに労働させるのは100年前でもいかがなものかと思う。その代わりと言ってはなんだが、若い女性秘書というのは適当なレギュラー登場人物だったに違いない。
 
 1943年発表の本書は「ポッツの靴はアメリカの靴、どこでも$3.99」のキャッチフレーズで巨万の富を築いた一家の事件を描いている。実権を持っているのは6人の子供を持つ母親。貧しい生い立ちからの叩き上げ事業家である。
 
 ただこの子供たち、先夫との間に生まれた3人は怒りっぽくて訴訟ばかりしている長男、天才科学者を自認するが実は無能な長女、マザーグースの世界から抜け出せない次男と、みんな問題児。
 
 現在の夫との間に生まれた3人は優秀で、事業は実質的に双子の三男・四男が切り盛りしている。些細なことから喧嘩になった長男と三男が「決闘」をすることになり、一計を案じたエラリーたちは決闘用のピストルに空砲を詰めることで惨事を防ごうとする。しかし長男のピストルは実弾を発射し、相手を殺してしまう。
 
 「我々はピストルを撃った人間を見た。しかし殺人犯が誰かはわからない」とエラリーがなげく事態が発生する。思うに作者は、このシーンを最初に思い描いて、それが現出するシチュエーションを考えていったのだろう。「アメリカ銃の謎」同様、多くの銃が登場するが、ここでも小型のコルト(ポケット)25口径が凶器として使われる。およそ決闘には似合わないコルトが使われること自体がトリックのキモであるが、マグナム44口径なら知らずこんな銃の1発で人を殺せるものだろうか?
 
 謎解きはかなり複雑なもので、クイーン得意の「マニュピレータ」も出てきて、息もつかせぬ最後の80ページとなる。この作品は高校1年生の時に読んで、衝撃を受けた。最後にニッキー・ポーターの誕生秘話が語られるが、「Nicky(悪の意味がある)ではなく、Nikkiとつづる」というエラリーの言葉があった。僕がペンネーム「Nicky彰」を選んだのは、この記述がルーツです、悪ぶってたんですね。