新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ミラマー・アパートの美女たち

 これまで「梟はまばたきしない」と「うまい汁」を紹介した、A・A・フェアの「クール&ラム探偵事務所もの」で、「うまい汁」から2年後の1961年に発表されたのが本書。ヘビー級の大女で吝嗇極まりないバーサ・クール女史と共同経営者になった小柄でソフトボイルドだが頭は切れるドナルド・ラム君、それに秘書役で存在感を増してきている可愛いエルシーの3人が活躍するシリーズだ。

 

 今回も「クール&ラム探偵事務所」には、奇妙な依頼が持ち込まれる。交通事故があって示談が成立しそうなのだが、被害女性が行方不明だという。彼女は後遺症としての頭痛を訴えていて、それが真実か保険会社としては調査したい。しかし当人が行方不明なので、探してくれというもの。大手保険会社が通常取引のない探偵社を、しかも高額で雇うというのは胡散臭い。

 

 しかしカネには弱く(汚い)バーサは、すぐにラム君を人質に差し出して小切手を受け取る。ラム君も手慣れたもので、被害女性と同居しているという女性に接近し始める。被害女性のヴィヴィアンは金髪、同居人のドリスは黒髪の違いこそあれ、ミス・アメリカ候補になれそうな美女たちだ。2人はカリフォルニア近郊のコリンダ市で豪華なミラマー・アパートに住んでいる。

 

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 ドリスとその愛人ダッドリーは、近づいてきたラム君に(また)奇妙な依頼をする。ヴィヴィアンの車と不動産業者ホルゲートの車が接触事故を起こしたシーンの目撃証人になってくれと言うのだ。適当に従ったふりをして、ラム君は事故の相手ホルゲートの会社を調べ始める。受付にはまたもミス・アメリカ級の美女ロレーン、彼女は赤毛でなんとミラマー・アパートの住人だという。

 

 これは偶然ではないと考えたラム君は、エルシーが整理してくれた「未解決事件File」から、交通事故の同日付近で起きていた事件のリストを見て、ある仮説を立てる。しかし姿なき犯人はホルゲートを殺し、ラム君の車のトランクに死体を隠した。警察の検問で死体が発見され、ラム君はついに指名手配される羽目に。

 

 大柄な美女(除くバーサ)に囲まれながら、少しもよろめかないラム君の姿勢は立派。しかも適当な会話をしながら、ミラマー・アパートの秘密を暴くカギを探している。本格ミステリーとしてはフェアではありませんが、事件探偵ものと見ればスピーディで魅力的です。でもちょっと美女がワンパターンかな?