新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

1,350万件の電子カルテを分析する

 2022年発表の本書は、長年電子カルテの開発・普及・利用に関わった油井敬道氏(アライドメディカル取締役)の医療費論。医療業界は通常の市場原理が働きにくいので、電子カルテなどのビッグデータ分析で実態を明らかにし、患者・保健者も含めた社会全体での改善を図る必要があると筆者は言う。

 

 普通のビジネスなら、消費者が欲しい物を言い、商店はそれを提供して適正な対価を得る。消費者が気に入らなければ取引は成立せず、他の店を探すだけだ。しかし医療業界では、医師がどのような処置をし薬を処方するか(ほぼ)一方的に決めることができる。このままでは2019年時点に44兆円を越えた日本の医療費は、ますます増えてしまう。

 

 そこで筆者は、25年間、61万人の患者、1,350万の電子カルテを分析して、生活習慣病(特に高血圧症)の治療と薬の処方、並びにその評価を示すことで社会全体の意識を高めようとした。簡単に言うと、

 

        

 

1)同じ高血圧治療でも、3~5倍の費用の相違がある

2)新薬(*1)ジェネリックの違い、診療頻度(最大90日間隔)の違い

3)検査の手法や治療(例:特定疾患処方管理)の有無

 

 が原因となる。仮に年間4兆円とされる生活習慣病治療は、より安い薬・長い診療間隔・検査等の改善で半減できると筆者は言う。また安い治療と高い治療で効果に違いはあるかというと、差は見つけられなった。高血圧治療の効果とは、治療(&処方)して血圧が下がったか否かではなく、患者が致命的な事態(心筋梗塞脳卒中等)に陥ったかどうかで判断すべきだが、その意味での差はなかったということ。

 

 また、新しい(高い)薬には、未知の副作用がある場合もあって「高い治療&処方が良い」というものではない。この点を患者・保健者は認識して、個々人ではなくビッグデータを活用して医療機関に完全を求めるべきだとある。

 

 ジェネリック、90日に一度の診療、ちゃんとレセプトを見ることなど、患者の立場で成すべきことを教えてもらいました。

 

*1:新しい機序(*2)と成分なら「ピカ新」、成分のみ新しいなら「ゾロ新」

*2:薬が作用する仕組み、例えば水分を排出して血圧を下げる、血管の緊張を和らげるなど