新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

アイドル歌手と追っかけ娘の20年後

 2000年書き下ろし出版の本書は、以前「越後七浦殺人海岸」などを紹介した大谷羊太郎の八木沢警部補ものの長編。元来ミュージシャンで、大物芸能人の付き人経験もある作者が得意とする芸能界裏面ものである。

 

 大手商社の幹部でニューヨーク駐在の夫を持つ有閑マダム里佳子は、世田谷の屋敷で大学生の娘藍子と2人暮らし。良家の奥様族とのつきあいばかりで、42歳の体を持て余し気味の美熟女である。娘藍子がプチ家出をした件で、久しぶりに六本木などの盛り場を巡った彼女は、20余年前に追っかけをしていたアイドル歌手畑野と再会する。

 

 畑野は55歳になっていたが、アイドルのオーラは消えていない。同年代のビジネスに疲れた夫よりずっと輝いて見える。さらに里佳子のこともよく覚えていた。2人は岩国で逢瀬を楽しむところ、旅館のボヤ騒ぎがあって別れたままだったのだ。

 

        

 

 再開した2人は、安芸宮島への旅行を企画するのだが、そこで畑野が殺されてしまった。東京に逃げ帰った里佳子だが、畑野の付き人でライター崩れの前山と言う男に宮島で姿を見られていた。強請られた彼女が前山の自宅を訪れると、前山も何者かに殴殺されていた。

 

 2人目に殺人は警視庁管区で、ひょんなことから里佳子も知っている八木沢警部補が捜査を開始、八木沢は畑野がアイドル時代の女遍歴を綴った暴露本「花街道の旅人」を出版したことが背景にあると睨む。そこには岩国での里佳子のことも「R子」という仮名で書かれていた。一緒にいたU子、S子とその夫たちも含めて、容疑者は大勢いるが・・・。

 

 はぐれ刑事という看板が売りなのだが、本書の八木沢庄一郎は普通の刑事。20歳代の若手村岡刑事を指導しながら、冷静に真犯人に迫っていく。暴露本の抜粋部分を除けば、特に「芸能界の裏面」というほどのサプライズもありません。トリックも派手でなく「旅情ある2時間ドラマの原作」という印象でしたね。